読書録

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『私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築』 緒方 貞子 著

   2019年10月22日に92歳で亡くなった著者の、2002年12月、草思社から刊行された単行本が、2017年に文庫化されたものだが、米トランプ政権の誕生など世界情勢が混迷するなかで、本書の内容はいまも問われている大きな課題だ。

 ハーバード大で2001年に行われた講演の内容p326が示唆的で、以下引用。

今や世界は、共通する人間の安全と安定のための、広がりのある継続的なパートナーシップを築くことを選ぶのか、あるいは再び、自己中心的な孤立主義に戻るのか、その岐路にたっています。・・・人間の安全保障を打ち立てるという明快な理解の上に立った人類の連帯を築くための長い険しい道のりに踏み出すときが、やってきたのです。

発刊した朝日新聞出版社のサイト↓

publications.asahi.com

  「はじめに」は単行本として、エッセイや講演だけでなく、読売や朝日、外交フォーラムなど紙面や雑誌への投稿をまとめた冒頭に出てくる部分だが、思いがまとまっていて、以下引用する。

p10:私が10年の間に、中近東、バルカン、アフリカ、アジア、中南米各地での紛争をみていて思いはじめたことは、国家が権力によって領土を完全に保全し、国民の生命の安全を完全に保護できる時代は終わったということである。紛争がおこる前に、飢え、病気、宗教的民族的差別、社会的不公正で苦しむ市民を直接支援する国際的な仕組みをつくらなければ、この地球上から難民がなくなる日は来ない。私は、アフガン復興の仕事に取り組むことにより、国家に加えて人間の安全保障を考えるという思いを実践にうつす第一歩を踏み出したのである。

 また、文末の解説p382でも引用されている重要な部分p222もメモ。

一番大事なことは苦しんでいる人間を守り、彼らの苦しみを和らげること

 解説の中には、名付け親が、曾祖父の犬養毅元首相、父は外交官、母方の祖父も外相という外交官一家だったこと。結婚相手の父はジャーナリストで政治家だった緒方竹虎などを紹介している。そして、5.15事件や2.26事件の教訓から、軍隊暴走の危険性をふまえつつ現実主義的な対応で多国籍軍の要請などを行った背景だとする。

 ちょうど、ルワンダ難民救援でゴマの難民キャンプも訪れたことがあり、本著にも紹介されていた対応の難しさを実感したことを思い出す。米英の孤立主義への傾斜など、人間の安全保障という理想からは厳しい状況になっている印象もあるが、よりよい世界になるよう願いながら、何ができるかは考え続けたい。

 

{2020/09/15-18読了、記入は09/20(日)}