読書録

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IoTとは何か 技術革新から社会革新へ 角川新書 K-74

 最近のはやり言葉のように見える『IoT』=『Internet of Things』(モノのインターネット)は、実は著者が30年間実現を目指して研究開発してきた分野で、『ユビキタス』や、その前の『どこでもコンピューター』、さらに前は『HFDS』(超機能分散システム)であった(p12)とし、いまや思想や制度など、社会的コンセンサスが必要だと力説している。


 そのために重要で必須なのは「責任分界」や「ベストエフォート(=努力はするが保証できない)」と表裏一体の「オープン」(p113)であることだが、日本社会との親和性が低いということを繰り返し指摘し、オープンデータがより活用できるようすべきだという。

 具体的には、「データ公開」は、PDFではなく、ネット経由で他のシステムから利用できるAPIを設置し公開するスタイルが潮流で、ロンドン五輪のときの市交通局の取り組み(p121)などを紹介している。

 しかし「日本の組織・個人は、一般に責任感が強く失敗を恐れる傾向が強い、いわばギャランティ志向で…ベストエフォートにより成り立たざるをえないオープンなシステムとは親和性が悪い。そのことが…日本が後手に回る要因になっているように見受けられる」と分析する(p160)。スマホで日本の端末メーカーが凋落し(p180)、「電子立国日本などと誇っていたのが今や嘘のようで、オープンな考え方を哲学や根本的レベルから理解しないと、小手先ではいけないというところまできているのではないだろうか」(p183)と手厳しい。

 個人情報を受けた側が、状況に応じて適切に扱う「事業者側の義務」としてプライバシーを定義しなおし、そのコンセプトのもとに制度を再構築することが必要(p184)と提案しているが、ことし2017年5月30日から、改正個人情報保護法が施行され、ビックデータ時代への対応が盛り込まれたのは、こうした背景がったからかとも思う。 https://www.ppc.go.jp/files/pdf/28_setsumeikai_siryou.pdf 1117夜放送されていた金曜イチからでも、「あなたの個人情報はどうなっている!?“匿名化”リスクと活用」のタイトルで扱っていた。
 この関連では、著者が理事長をつとめる『一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構』( https://www.vled.or.jp/ )のHPに、取り組みが紹介されている。
 

発刊したKADOKAWAのサイト→ http://www.kadokawa.co.jp/product/321509000527/


 本書のおわりにでも、「完全なゼロリスクは無理でも、道路交通法や保険など各種の制度で補完して社会的コンセンサスが作れれば、日本でもオープンでベストエフォートな実世界システムは不可能ではない。しかし、ほんの少しでもリスクがあればイノベーションを受け入れないとするなら、IoTは社会への出口を失う」(p234)と、改めて警鐘を鳴らしている。

 また、自動運転車における「トロッコ問題」(p236)-そのまますすめば一人の子どもを轢くが、ハンドルを切れば搭乗者が確実に死ぬようなケースで、優先順位を曖昧にせず明文化し事前に設定する必要がある、という哲学的な議論を日本では曖昧にしがちだが、欧米では突き詰めるタフさがあるということを、紹介している。
 

 IoTの今後の課題は、技術的というより、社会・文化的に解決すべき課題が多いのかもしれないと、本書を読んで感じた。それは、本書を引用していた、2017-10-24 『躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア』 角川 歴彦 著 編集( http://d.hatena.ne.jp/MrBooPapa/mobile?date=20171024 )と同様の課題でもあると思う。


 また、リスクという面では、神奈川県座間市で9人の遺体が発見された「座間 遺体遺棄事件」への対応から、ネット規制の議論がおきたり、サイバー攻撃への対応など、オープンとは逆行するような動きもみられる中、今後も注目していきたい。

 なお、サイバー攻撃関連では、「内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)」( https://www.nisc.go.jp/ )という組織があり、ツイッター( https://twitter.com/nisc_forecast )で、最新情報を発信していることを、最近学ぶ機会を得たので、これもあわせてメモしておく。


{2017/11/13-15読了、記入は18土曜}