読書録

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左遷論 組織の論理、個人の心理

 ドラマ『半沢直樹』のストーリーから始まる本書は、理不尽な人事がどういう組織の論理で行われるのか、それに対して個人としてどう考え何ができるのか、きわめて現実に近い形で事例や論が展開され、目が開かされる。

 著者の本は、2012-01-23 『人事部は見ている』 http://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/02/102364.html 以来。この読書録に残している、「自分のことを3割高く評価する傾向があり、評価や異動に満足しているのは3割程度+徐々に人と人とのつながりの中で決まっていく。大企業における課長クラス以上の出世の条件は、(結果的に)エラくなる人と長く一緒にやれる能力」などの部分は、本書でも登場してくるが、改めて実態に近いと感じている。

 あとがきの最後の方に、「左遷自体やその背景にある会社組織のことをよく知ることだ。くわえて、自分自身に正面から向き合うことが求められる。それらを通して、左遷をチャンスに転換できる余地が生まれる。…左遷ときちんと対峙できれば、人生を充実させ、イキイキとした老後にもつながってくるものと信じているp225」とあるが、これを信じたい。
 大手生保の人事を担当し、著者自身が配置換えなどを経験していることも紹介しているだけに、説得力がある。


発刊した中央公論新書のサイト⇒ http://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/02/102364.html


 いくつかポイントや事例を以下に引用して考察(←)するが、備忘録としたいことが盛りだくさんで、そこは大目に見て戴ければありがたい。

◇左遷の定義「それまでより低い役職や地位に落とすことp19」だが、人事異動の意図や理由を対象者にきちんと説明しない慣行で誤解を与えたりp21、組織偏重と呼べる実態の中でどの職場で働いているかにより左遷と受け止められたりp26、することがある。
←本書では、日経記事の用語検索からの分析のほか、古くは菅原道真、最近では森鴎外のケースも考察しているが、「どの職場か」「どの場所か」というところは、意味を持ってしまうことが多々ある。なるべく説明できるようにしてきたつもりだが、なかなかそうはいかないのも実態。


(欧米との比較)
◇米国法人の個人主義的、合理主義的な姿勢と、日本法人の感情面を含めた一体型の組織運営スタイルとの相違、公私の区分の考え方の違い、そして何よりも人と仕事の結び付き方に関するギャップ・・日本では、人と人の結びつきが強く、公私の区分も曖昧になりがちp71、
◇日本の多くの会社では、一緒に働く同僚とのつながりや、そこでのポジションの方により重点で、管理職もポストの一つと考える傾向が強く、マネジメントの基本スキルも身につけていない社員がいるp76
←人と人との結びつきの大切さは痛感すること多し、ただそこにばかり気を遣うのもいかがかとも思いつつ、なかなか良いやり方ができないのが悩み。


(評価)
外資系企業で、目標管理に基づく人事評価でランク付けを行い、評価が2年連続で最低だと自動的に上司から特別な指導を受ける、業務改善プラン助言が行われ、1年たっても改善見込めないと退職を勧告する仕組みがあるが、大多くの日本の企業は、こうしたプロセスはなく、業務範囲や権限がはっきりしていないからp84
◇一般職査定の会議で、会社提示の目標評価管理項目は事務能力の水準が盛り込まれていたが、チーム内における貢献(情報連携、スケジュール管理)を重視するリーダーが多く、上位からグループ分けすると各リーダーの判断にほとんど差異はなかった。p86+欧米の人事評価の特徴は、エビデンス(証拠)を求めること。評価した根拠を言葉で説明できなければならないからp87
←360°評価など、より多くの意見をきけば集合知として正解に近づくのかも知れないとも考える。


◇伝統的企業では、新卒一括採用で、入社年次ごとに一つの集団として把握し、転勤や配置転換によって職務範囲を広げさせ、熟練度を高めつつ評定を積み重ねていくp102。(各年次のトップは一年上のトップを追い越さないというルールで、マトリックス表におさめることができるp110)40歳前後の管理職の選別で評価に差が、昨今はポストが増えず、往々にして働く意欲を失い左遷と受け止める社員は相当数いるp104。組織がピラミッド構造になっている限り、いずれポストを確保できなくなり、役職定年、出向制度などがあるが、全員が上位志向性を持っていれば、左遷と切り離して考えることはできないp109。年次を基本にした人事運用は、公務員も同じp127
←こういう仕組みで目安がきちっとあることを実感したのは、ほんの数年前のこと。

(左遷と対処)
◇『冬の火花−ある管理職の左遷録』江坂彰氏著 p135〜大手広告代理店の大阪支社長から社長交代で左遷
p139「むずかしいのは、あくまで人間関係である。仕事の内容や質ではない」
◇定期異動を金曜日に発表すると決めている会社は、週末を家族と過ごせば気分がリフレッシュされるからp144
◇会社に裏切られた理由で、バブル入社組は出世できない昇給が思い通りでないといった役職や昇給面が上位だが、ゆとり世代は「仕事の内容が期待していたものと違っていた」が最多。日経ビジネス社畜卒業宣言 特集 2015年8月3日号』よりp150
←時代の変化も感じるが、「働き方改革」が求められる昨今、会社側も変わらないといけない。


◇左遷はチャンスへの転機として、NHKの池上彰キャスターを紹介。40代で、将来解説委員を希望しながら、週刊こどもニュースに。その時、専門分野を持っていなければダメと言われ、50代半ばで退職p162。+大手都市銀行に勤めていた山下正樹さん57歳で早期退職した翌日から四国八十八か所霊場を歩いて巡り「公認先達・歩き遍路の会会長」にp177
◇40代以降に再び評価を得るケースは、次の3点に限られるp168
1)過去に一緒に仕事をしていた先輩や同期からのヒキ
2)自分の上司や先輩社員が病気や事故によって出社できなくなったり、不祥事引責で姿を消す
3)女性登用など対外的なアピールのために特定の対象者の評価を引き上げる
←確かにこういうケースをいくつか見てきた。人のめぐりあわせはどうしようもない。


◇窓際で左遷と思うかもしれないが、視点をかえれば、余裕のある恵まれた場所にもなり得、開き直ってその余裕を自分のために十分活用することも考えられるp174+仕事だけが人生ではないと思ったり、家族の大切さを再認識することによって視野が広がったり…家族の存在自体が自分を支えていることにも気づいたp186+挫折や不遇の体験を通して、会社の枠組みを客観化したり、そこから離れて次のステップに移行している。自分の悩みに関わることや、そこから派生することがきっかけで一歩前に踏み出す人が多数派だp191+「会社とは何か」「組織で働くとはどういうことか」を深く考えるまたとない機会であり、新たな発想を生む可能性を秘めているp194
◇社員が、組織から与えられるものを待っている状態では、何も生まれない。個人にも組織にも変化は生じないのだp202+社員の側も、会社から与えられるものを待つという姿勢ではなくて、「自分が本当にイキイキ仕事ができるためにはどのような条件が必要なのか」を考え、「こういう部署で働きたい」「この仕事がしたい」といった要求を企業の発展との絡みで主張しなければならないp212
←働く側として、きちんと考えておきたいもの。


◇日本の組織では、共有の場の均衡状態を安定させるために、「お任せする」「空気を読む」といった態度が生じやすい(p165.p217)、自然と出来上がっているもので、共有の場は共有の場として対応しておいて、そこから離れてもう一人の自分が個性を発揮する新たな場を探すべきである。会社を辞めずに、仕事以外のもう一人の自分を発見するというやり方であるp218+左遷に遭遇しても、もう一人の自分を持っていれば、その分ダメージを受けにくい。社内の競争がすべてではないと分かるからp222
◇会社は一律的な人事運用を修正して、できる限り社員に対して個別対応を進めること、個々の社員側は単なる受け身の姿勢ではなく、主体的な立場を確保すべく、もう一人の自分を産みだす姿勢が求められていると言えるだろうp222
←定年も65歳まで延長され、人生100年時代とも言われる昨今、課題は多いけれど、前向きに考えていきたいと思う。


{2017/9/29読了、記入は10/7土}