読書録

読書整理用のダイヤリーから移行しました19/1/26土~

社会保障亡国論


 現状の社会保障財政では破綻するため、早急に抜本的な改革が必要だということを、さまざまなデータを引用しながら説明している。消費税引き上げだけでは「焼け石に水」で、相続税への課税ベースを広げる、給付を低所得者対策のみに圧縮する、生活保護に給付付き税額控除制度を導入するなど抜本的改革など具体的な政策を提言し、そのためにはリーダーによるトップダウンが必要という流れになっている。論説に一貫性と説得力がある内容となっている。


 財政問題として考えた場合に、改革の手段は1)負担の引き上げと、2)給付の削減・効率化 の2つp126というのは、その通りだろう。また、保育園や待機児童の対策をめぐって、ミネラルウォーターを事例に、安い価格で提供するために公費を投入した結果、ますます税金を投入せざるを得なくなるという説明p183は、たとえとしてはわかりやすい。認可保育園の保育料が安すぎる一方、入園できるのはフルで働く正社員が優先されるというのは、確かにおかしな話で、著者が主張するように、保育料を自由化したうえで、低所得者層の負担を減らすバウチャー券といった直接補助を行うことで、無認可保育園でも補助できるp194というのは、改革すべき方向性なのかも知れない。「貧困の罠p230」という、生活保護制度自体が自立を阻害する仕組みになっていることも含め、規制改革の必要性がよくわかる論議だと考える。


 なお、改革が進まない背景については、これまでの政府内の論議が、「誰も全体像を見ない、誰も将来を考えない、誰も全体の負担と給付のバランスを考えない、という縦割り行政と近視眼的行動の最たるもの」p260と指摘しているが、いま東京都で大きく揺れている築地移転問題で盛り土が行われなかった官僚組織にも似ているところがあるような気がする。
 

出版した講談社のサイトに目次あり⇒ http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062882538


 本著の提言まとめがp256〜259にあり、一部引用して以下に。
1)現在の社会保障制度は、膨大な財政赤字を生み出しながら借金で運営され、消費税10%引き上げても焼け石に水で、抜本的な負担引き上げ、給付抑制・効率化が必要
2)負担引き上げは、今後の高齢化を考えると消費税引き上げは困難で、相続税の課税ベースを広げるなど高齢者の資産課税から財源を得る仕組みに重点をシフトする
3)給付の抑制・効率化は、無駄の温床となっている低所得者対策の範囲を超える公費の投入で、低所得者対策に圧縮する
4)改革を早期に実行して、年金だけでなく、医療や介護も含め高齢化のピークに備えて積立金を作り、世代間不公平を改善する
5)待機児童対策では、保育料自由化、株式会社の参入完全自由化、バウチャーによる低所得者対策と無認可保育園の質の底上げを図る
6)非効率な生活保護制度に対し、自立へのインセンティブを、ワーキングプア対策として給付付き税額控除を、導入すべき
⇒オーソドックスな経済学から導かれる至極当たり前の内容で、より重要な問いは、改革をどう実行するかだと、著者は主張している。


 どんな組織でも、官僚化や縦割りの弊害などあり、硬直化した現状を改革するには、先を見据えてきちんと考えていく必要があるのだろう。

{2016/09/24-26読了、記入は10/1}