読書録

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アジアの幸福度

世論調査の手法を駆使しながら、実証的な政治学研究を進めてきた猪口孝氏の思いが伝わるとともに、「生活の質」の視点で東アジア諸国の違いがわかる。トルストイの言葉が随所に引用され、ある意味では、幸福とはなにかという生き方にも通じるところがあった。学術書でもあり、“バリマックス回転による因子分析”や“回帰モデル分析”“多変量解析”など統計学的バックボーンもないと、なかなか難しいところもあるが、各章ごとに“結論”としてまとめもあり、概要についてはつかむことができる。


出版した岩波書店のサイトには目次もあり→ http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-029140-8


印象に残ったポイントを以下、引用。
◇(1979年以降35年間戦死者ゼロという「東アジアの永い平和」を達成した)東アジアの物語は1破壊と悲惨、2経済的進展、3影の差す幸福からなるp11。東アジア人は一人あたりの所得は最高だが、南アジアや東南アジアより不幸せで…「すべての幸せな家庭は同じように幸せである。不幸せな家庭はそれぞれに不幸せなのである」というトルストイのことばが思い出される。三個の要因が記録され、1宗教心が薄弱、2家族生活が核化、3生活のテンポが速くてときに息もつけない位p18

◇東アジア内での価値観・規範意識で、中国、台湾、香港、ベトナムシンガポール、韓国の六社会では、独立、勤勉、正直が一様に突出するのに対して、日本ではあまり強調されず、思いやりだけ突出する。ハンティントン教授「文明の衝突」にいう、中華文明と日本文明は違うという主張もこの一点では理があるp34

◇アジアの一般市民は、年齢が高くなると年金の支出増加に賛成する人が多くなるというエビデンスで、民主主義的プロセスを通じて市民の希望が国の方針に正しく反映される限り、高齢化は必ずしも悪影響だけでなく、望ましい結果をもたらす可能性を生む⇒高齢化による平和と呼ばれ、世界平和をもたらしうるp52

◇国の類型分類で、日本は、台湾、インドネシアアフガニスタンウズベキスタンタジキスタンなどと同じAb型=物質主義的要因が優位で、次に脱物質主義的要因が続く。ここにいう物質主義はQOL維持要因、脱は拡大要因。ほかに公共部門支配要因CのCa型にシンガポールモルディブなど組み合わせにより8つの社会類型を示すp90

◇日本の日常生活満足度(第9章)の結論p144-145から
・男性は食事と家族の満足度が女性より高いが、職業とか所得は高いとはいいにくい
・女性は仕事と所得に対する満足度が高く、執着が強いようである
・管理職と主婦は、所得に対する満足度が他の職業より高い
・結婚と離婚は、所得や家族の満足度に劇的な違いをもたらす
・家族規模が大きければ大きいほど健康の満足度が高く、独身は一番低い


{12/2-12読了、記入は14}