読書録

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使える経済書100冊

使える経済書100冊 『資本論』から『ブラック・スワン』まで (生活人新書)

使える経済書100冊 『資本論』から『ブラック・スワン』まで (生活人新書)

マルクスケインズの古典から最近のクリス・アンダーソンなど、聞いたことのある経済学や哲学の学者の本が、著者の立場からコンパクトに紹介されているが、むしろ本を紹介しながら著者の考えを披露しているという印象が強く残る。

著者がハイエクについて書いた本を読んでいたことから、市場原理主義新自由主義の立場が明確で、小泉内閣構造改革で格差が広がったのではなく、派遣労働を規制することもおかしいというのが主張なのだろうが、そこまで明快に決めることができるのか、よくわからない。

p34:著者が評価する唯一の経済学者は市場の機能を高く評価したハイエクだ。


日本経済に対する提言も随所に見られ、あくまで規制ではなく、自由を重きにおいているように思える。それは、今の民主党政権への批判にもつながり、そのバックボーンとなっている経済政策をも否定する考え方、裏返せば、小泉総理-竹中大臣がやってきた路線の方がより良いと主張しているようで、著者の処方箋を進めていくと、サッチャーレーガン政権が目指したような国になるような気がするのだが、それはどうなのだろうか。マイケル・ムーアが描いた「シッコ」のアメリカの保険制度は、どうしても違和感を覚える。

p107:日本経済が復活する道は、新しい世代の企業による「創造的破壊」しなかいだろう。
p128:必要なのは政府が民間を指導する産業政策ではなく、新しい企業や新しい経営者によって、なるべく多くの突然変異を産み出す制度設計である。
p150:場当たり的な規制強化を繰り返すのではなく、柔軟で多様な雇用形態を実現するための雇用規制の包括的な見直しが必要なのだ。

p181:自由主義と市場によって合理化された国家は、再中心化としてのナショナリズムや国家理性を必要とする。政府は限りなく合理的な主体として「国家戦略」を立案することを求められる。経済的自由主義をとったサッチャーレーガン政権が、攻撃的な外交政策をとったことは偶然ではない。

p191:GDPの2倍を超える財政赤字を「解決」する手段は、インフレによる事実上の債務不履行しかないが、それはでふれよりははるかに大きな経済危機をもたらすだろう。もしかすると、それが日本経済を「リセット」して再生させる荒療治かもしれないが。
p222:民主党の成長戦略に金融はまったく入っていない。おまけに首相が金融を「労働なき富」よばわりするようでは、日本の未来は暗い。
p227:規制改革によって成長率を引き上げる余地は大きい。
p233:国家社会主義も一つの制作だろう。そうやってゆっくり衰退してゆくことが、日本にとって現実的に可能な唯一の選択肢であるような気もする。


結局、平等と自由のどちらを重視するのか、いずれかにブレながら歴史は動いているようにも思え、その正解はないのだろう。その点では、著者の次の言葉に、一番共鳴した。次の部分は、最近評判になっているサンデル教授の正義論に通じるところがあった。

p182:「格差社会」を指弾する人々は、所得分配は平等であればあるほどいいと思っているだろうが、働いても働かなくても所得が同じになったら、誰も働かなくなるだろう。他方、所得分配を市場だけで決め手課税も福祉給付もしないと、貧富の差は非常に大きくなる。この両極端が望ましくないことは自明だが、その間のどこに「最適」の分配があるのか、という問題には理論的な答えがない。・・複数の基準の中から多くの人々が合意を形成する手段を検討し、中立性や透明性などの基準をあげる。この意味で、正義の概念は、民主主義のあり方と不可分である。


著者が進める教科書として、「マンキュー 入門経済学」をあげている(p212)が、機会があったら読みたいものだ。

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