読書録

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メディア不信  何が問われているのか

 イギリスのEU離脱をめぐる国民投票や、アメリカでのトランプ大統領の大統領など、既存メディアの論調と実態が大きくかけ離れる動きが相次ぐ中で、本書は、いまの日本のメディアを取り巻く問題について、ドイツ、イギリス、アメリカの具体的な事例を引きながら、鋭く考察している。

 そして、メディアに対する不信の問題は、単にフェイクニュースへのリテラシーを上げるということで解決する問題ではなく、ネット時代に、デイリー・ミーと呼ばれるような自分の関心のある情報のみアクセスするような傾向が強まる中、ブリクジットやトランプ政権による分断などを避けるためには、メディアの公共や統合という機能にも目を向けるべきかどうか?著者の書き方にも迷いがあるように思うが、重要なポイントだと思う。

 具体的には、以下を本文から引用↓本文で意見を頂きたいという書き方も珍しいように感じる。
p215:身近に市場にも政府にも支配されない文化空間を創造し社会で共有することによって市民の間でより多くの信頼を分かち合い、社会の分断を緩和することができるのはたしかなようだ。2016年の米国大統領選は、まさにそのような社会をつなぐ共通基盤の役割をするメディアが、決定的に抜け落ちていたことを例証する事件だった。今後、自由なメディアが連携して、市場原理をどの程度制御しながら知の共通基盤をつくっていくかが重要な課題である。
p222:多様な声をまとめる、共通基盤としての「公共性」を再興する制度設計を考えること、メディアが社会の「統合」を試みる知の共通基盤を創造することは、よりよき社会をみんなでつくっていくにあたって、ますます重要になっていくのではないかという思いに傾いている。特に米国社会では「公共セクター」が脆弱になっており深刻だ。…公共性を分かち合い統合のための求心力をつくる必要があるのではないかという思いに至っている。そのためには…メディアのデザインに社会全員が参画できるような工夫が必要である。
p223:研究者としても個人としても「統合」を疑い「公共(性)」概念に反抗をしてきた…
p224:同調圧力を避けながら、多様な人間をつなぐことの難しさを改めて思う。たとえば、ネットにも受信料のような仕組みをもうけて、だれもが安心して集い、参加できるような公共スペースをつくる動きがあってよいのかも知れないとさえ思う。しかし、その運営主体をどうするか…多様性の否定なのではないかという思いも頭をよぎる、読者のみなさんからも意見を頂きたい。



発刊した岩波書店のサイト⇒ https://www.iwanami.co.jp/book/b325115.html



 意見をということで考えれば、この論点については、かつて読んで記録したようにアル・ゴアも指摘している。
{ 2014-12-23 『アル・ゴア未来を語る』 枝廣淳子監訳 中小路佳代子 訳
 http://d.hatena.ne.jp/MrBooPapa/mobile?date=20141223 }より、
p534:最優先すべきは、私たちが行わなければならない難しい選択に関して、広く利用しやすい公開討論の場で、率直にわかりやすく互いにコミュニケーションをとり合う能力を回復することだ。つまり、インターネット上に、活気ある、開かれた「公共広場」を構築し、新たに姿を現しつつある難題への最善の解決策や、機会をとらえる最善の戦略について議論するのである。また、公開討論の場を、公益に反する意図をもった特別利益団体やエリート層の支配から守ることも意味する。とくに重要なのは、民主主義制度のインターネットへの移行を加速させることだ
 
 現在、公共放送から公共メディアへの進化を掲げたNHKの経営計画に対して、民放や新聞から肥大化との批判があるが、一から運営主体を作りあげるのは容易ではなく、既存の組織をうまく活用すれば良いのではないかと思うのだが、研究者の立場として、メディアがみな反発している中では、言い出しにくいのかも知れない。


 このほか、備忘録としてたくさん引用したいのだが、いくつか引用しながらメモ。

◇ドイツでは、p25:刑法によって民衆扇動罪が規定され、ヘイトスピーチが禁止されている。このような背景から、2017年には、フェイスブックなどのソーシャルメディアに「明らかなヘイトスピーチ」や「フェイク・ニュース」が書き込まれ、24時間以上放置された場合、掲載したソーシャル・メディア企業に対して5000万ユーロ(約60億円)までの罰金を科すという法律も可決した。…「言論の自由」には限界があるというコンセンサスができあがっている。
p37(2015-16に変わる大みそかケルン市で女性が痴漢強姦被害数百件:加害者の出自に関する報道を控える)公共放送は、政府の難民積極的受け入れ策を支持するために、あえてマイノリティを不利なイメージで報道しないようにする「沈黙のカルテル」があるのではないか、外国人に関するニュースには報道規制がかかっているのではないか、受信料を支払うに値する市民のための報道をしていないのではないか、などという厳しい声が、右派政治家や保守メディアから上がり、市民を巻き込んで大きな社会問題に発展した。

BBCについて、p76:テレビ討論では、簡単でわかりやすく響きのよいスローガンが繰り返された。また、ニュースではバランスをとるために、まんべんなく両側から情報が提示された一方で、各陣営のキャンペーン策略に引きずられてしまい、分析的視点が少なかった。(これが、離脱がもたらす現実は決定したあとで明るみに)
p77:ストップウォッチの公平性を2000年以降廃止、しかるべき公平性や幅広いバランスにシフト、ドイツの公共放送も同様、
p79:2016年特許状更新で第6条の公共的目的項目が5つに改正:1)偏りのないニュースと情報を提供し、市民の理解と活動を促進、2)あらゆる年齢の人々への教育と学習を支援、3)最高レベルにクリエイティブ高品質、4)すべての地方地域の多様なコミュニティを反映し表現し奉仕する、5)英国とその文化価値を世界に示す

◇日本では、p124:新聞通信調査会の調べでは、NHKテレビと新聞の信頼度がほぼ同じ69.8点
p127:公共放送としてのNHKの特殊な社会的地位と役割は、日本社会でさほど認知されていないことが見える。存立根拠が社会的に理解されていない以上、そこに依拠する受信料制度も将来にわたって非常に不安定だと心得ておいたほうがよいだろう。
p154:草の根運動は大メディアを批判することによって、普通の人々が抱いてきたリベラル・エリートへの怒りを代弁する。これこそまさに、ドイツにも英国にも米国にも見られたメディア不信の形であった。


 著者はまた、p167で「ニュースの情報源として、報道機関を信用するか友だちを信用するかニュース価値のヒエラルキーは変化するか」をボツコフスキ氏と共同研究中だと紹介していたが、ネット時代どこに向かうのかとても興味深く、フォローしていきたい。



{2018/2/4-9読了、記入は25日}