読書録

読書整理用のダイヤリーから移行しました19/1/26土~

戦後日本のメディアと市民意識

オーウエルの1984の引用による管理社会論の俯瞰があり、なんとなくクリスタルの引用を含めて、青春小説から時代論を試みていた栗原彬氏のかつての講義も思い出しながら、「大きな物語」が変容したあと、まさに扉にあるように、どこに向かうのか、その第一歩であって、答えは逆に、なかなか見つからない難しさを感じた。

また、論文集ながら、ウェブ分析として、2ちゃんねるの「実況」や「オフ」などを考察の対象にしていることについては、そういう時代なのだろうとは思ったが、であれば、もう少し実証的というかデータを基本にした分析をすることに、今後、期待をしたい。改めて、何が正しいとか、こうすべきだという規範が見いだせない時代なのだから、それをマスメディアに求めても難しく、より多様な考え方が複数示されるなかで、何かを正しく選び取っていく能力というのが求められているように、思った。

(扉ー要旨)
戦後の日本において、マス・メディアは大きな影響力を持ち続けてきたが、市民に満足・安心をもたらしたのか、もしくは不安を喚起したのだろうか。本書は、戦後、日本のメディアが発信してきたメッセージと、受け手の市民がそれをどのように受容し、解釈し、行動してきたかを検討する。文化共同体としての国民国家を再生産し、「大きな物語」を紡いできたメディア言説はどこへ向かうのか。本書は、その問の第一歩である。

(目次ー引用)
第1章 メディアと市民意識
―戦後日本社会を中心に;
p36:(テレビの娯楽、実用、報道、各機能に加え、解説機能も90年に新聞を抜く)一般市民の間では積極的な政治参加とは距離をおき、テレビなどのメディアを通じて「観客」として政治を眺めるという姿勢が一段と進んできたのである。

第2章 戦後日本の社会理論における権力主体とメディア
―自由と能動性の背反;(津田正太郎)
p47:3つの社会理論:大衆、管理、消費、各社会論の比較検討→
p77:権力主体の変容→強権的なエリートから大衆天皇制に見られるような柔和なエリートへの移行、実体的な独裁者や支配階級からテクノクラートによって構成される脱人格的化された統治システムへの移行、そして権力関係一般の解消である。きわめて大まかに言うなら、そこでは権力の所在が徐々に下方移動し、「社会」の水準にまで降りてきたことが確認される。
p82:大衆の要求が様々に矛盾するものであるにおかかわらず、それらを反映させていこうとすれば、結局のところ当たろ障りのない表現のみが流通するということにならざるを得ない。実際、テレビ局が視聴者からのクレームを恐れ、画一的なフォーマットの番組を量産…ここに、受け手の能動性が、表現の自由をかえって制約しえいるという事態を見ることができよう。


第3章 ウェブに見られるテレビ・オーディエンスの活動と公共性
―市民による公共性を越えて;(平井智尚)
p102:マス・メディア批判は、…報道の場合には、捏造、偏向報道、過熱取材といった問題が批判の対象になる。ただし、2ちゃんねる圏に見られるマス・メディア批判は、規範的はマス・メディア批判とは一線を画している。前者は、市民が自らのリテラシーを駆使して…問題を発見し、是正することを目的とする。…真剣に向き合うものである。…他方、後者も自らのリテラシーやスキルを駆使して…問題を発見するのだが、…改善をめざしているわけではない。マス・メディア組織と同一面には立たずに、一歩ずれたところから嘲りを交えつつ、マス・メディア批判を行う(北田 2005)。その主眼は基本的に実況やオフと同様に、自分たちが楽しめること(自己充足的なやりとり)に置かれている。
p112:可視性、現れと複数性、DiYの議論を参照しながら、ウェブを通じたテレビ・オーディエンスの活動を教強制を有するものとして把握することを試みてきた。(…問題は1コンテンツをマス・メディアが多くを所有、2プログラムのコード設計に左右、3集団分極化

第4章 沖縄問題と市民意識
―「我々」意識の構築をめぐる「境界線の政治」とメディア言説;(山腰修三)
p144:(1沖縄問題を我々の問題に包摂できない本土社会の状況、2本土社会との対立関係に基づく独自の我々意識を構築してきた沖縄社会の現状→本土と沖縄の対立が深まる)


第5章 戦後日本のマス・メディア報道と公害・環境問題
市民意識、マス・メデイア報道、報道規範の相互関係;(山口仁)


第6章 戦後日本の原子力に関する社会的認識
―ジャーナリズム研究の視点から;(烏谷昌幸)
p234〜:1.「3.11」以後、放射能や被曝に対する社会的関心が著しく増大、2.飯田哲也のいう「二項対立的思考停止社会」からの脱却という問題提起をどう考えるべきか。(…賛成反対の水掛け論ではなく、いかにして新しいエネルギー・システムを構築できるかを一人ひとりが頭を使って考えていくことに力をそそぐべき)の総括の妥当性は綿密な検証が必要


{5/4読了、記入は5/6}