読書録

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モラルの起源 実験社会科学からの問い 岩波新書 新赤版 1654

 本書が取り上げる“実験社会科学”は、耳慣れない言葉ではあるが、手法としては心理学や行動科学という、人の心や行動に光をあてながら社会をはじめさまざまな分野を解明していこうという分野なのかと考える。

 文科省のHPにこの構想について紹介がある⇒ http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/hojyo/chukan-jigohyouka/1301282.htm このHPから『(2)研究の進展状況及び成果の概要』(平成19 年度〜平成24 年度)を以下引用↓
 研究組織は,「制度設計と評価」(「市場」,「組織」,「政治」,「社会」の四班),「人間モデルの構築」(「集団」,「文化」,「意思決定」の三班),理論班,総括班,および公募班である。これらの班の守備範囲は,従来の分野でいうと,経済学,経営学政治学社会学,心理学,哲学,生物学,工学,神経科学にまたがっている。
 この三年余りの期間において,各班で,各班固有の問題意識のもと,数多くの実験・理論研究がなされている。従来の社会科学の各分野が人間行動および社会の振る舞いの一側面しかみていなかったという意味合いにおいて「群盲評象」状況を呈していたのに対し,本特定領域の研究では,様々な実験手法を通じて,人間行動および社会の振る舞いを多面的にみることが可能になり,新たな社会科学のあり方とその発展方向を問い始めている。
 各班に温度差はあるものの,分野における核となる部分の妥当性を確認しつつ,その分野で十分に説明できない部分が他の分野との深いつながりがあることを発見しつつある。つまり,各分野における「アノマリー」の発見に終始しているのではなく,分析できる部分とできない部分の切り分けを着実に行い,できない部分を他分野の核となる部分と連関させ始めている。この意味で,本特定領域は,実験研究を通じて,社会科学の各分野に依拠しつつも,それらが統合できる可能性を見いだしつつあり,変化する社会の制度設計のための新たな分野に発展しはじめている。


発刊した岩波書店のサイト⇒ https://www.iwanami.co.jp/book/b281719.html


 本書から備忘録としていくつかポイントを引用
◇群れの生活と脳の進化から、ダンパーは認知的なまとまりをもつヒトの集団は150人、p16
◇個人の利益と社会全体との利益が一致しない事態=社会的ジレンマp57、共有地の放牧と掟破りをどう考えるか
オキシトシンは朱を超えて仲間とのきずなをつくるホルモンとして注目p96
◇ジェイコブスは、モラルは、自由な取引を重んじる商人型の「市場の倫理」と、政治権力関係に基づき秩序を重んじる官僚・軍人型の「統治の倫理」の二つの体系に分けられると大胆な主張をしているp132
ロールズは、自分への個別配慮が不可能な無知のヴェールのもとで、人々が自発的・民主的に選択する分配のかたちは、「万人を等しく公正に扱う正義の原理」になるはずだと論じたp144


 心理学的な効果という意味では、2月10日(土)のテレ朝で放送していた『池上彰のニュースそうだったのか!!』の2時間スペシャルが興味深い内容だった。「映像や写真でわかる世界の問題解決策」のタイトルで、世界が抱えるさまざまな問題に対する海外での意外なキャンペーン映像や写真が紹介されるのだが、信号無視をしたら大きな音をだし驚いた姿を写真にとって表示するなど、本書でも「規範を維持する他人の目」p73で写真によって行動にも影響が出るという点を連想させられた。
http://post.tv-asahi.co.jp/post-36685/


 この分野は、ICTの発展に伴い、さまざまな社会問題にも対応の可能性があるような気もする。今後を見守りたい。


{2018/2/2-4読了、記入は2/11月祝}