読書録

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許せないという病

許せないという病 (扶桑社新書)

許せないという病 (扶桑社新書)

 このところTVの情報番組で大きく取り上げられた社会問題として、ことし5月21日、東京都小金井市で発生したアイドル女性の刺傷ストーカー事件や、5月19日、騒音をめぐるトラブルが原因とみられる東京と兵庫で相次いだ殺人事件などがある。

 いずれも「許せない」という感情がコントロールできずに犯行に及んだと想像されるが、一方でアドラーの「嫌われる勇気」がベストセラーになるなど、心をめぐる問題をどう捉えたらいいのか、本著は、心構えの一つのヒントを与えてくれているようにも思う。


出版した扶桑社のサイト⇒ http://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594074074


 著者の本は、この読書録の記録では、『こんな子どもが親を殺す (文春新書)』( http://d.hatena.ne.jp/MrBooPapa/20080130 )を6年前に読んでいたが、本著では、著者の母や祖母への「許せない思い」と、なぜ精神科医になったかが書かれていて、その内容には驚いた。ある意味、著者自身の物語も含まれている。この母娘関係というテーマは、次に読んだ原田マハ著の『永遠いをさがしに』が似たような構図で、とても感動的なストーリーになってはいた…


 許すということについては、心の傷が癒えるための時が必要で、「対象喪失」を克服する過程として、キューブラー・ロスの死の受容五段階説(p81)<否認→怒り→取引→抑うつ→受容>が紹介され、許すことと違い(取引や受容)がありながらも、「喪の作業」という防衛メカニズムだとする。これまでもこの五段階説は何度も触れてきたので、この読書録での登場リストは以下。
2015-12-20 『執着 生きづらさの正体』 香山リカ 著
2014-10-17 『人は死ぬとき何を思うのか』 渡辺和子 他著
2013-12-14 『望んでいるものが手に入らない本当の理由』 心屋仁之助 著
2012-02-17 『悲しんでいい 大災害とグリーフケア』 高木慶子著
2011-04-28 『フリー』 クリス・アンダーソン
2011-01-31 『自殺で遺された人たちのサポートガイド』 アン・スモーリン 著
2010-07-09 『職場はなぜ壊れるのか』 荒井千暁 著作
2008-10-22 『セルフアサーショントレーニング』 菅沼憲治 著
2008-03-02 『生きていくことの意味』 諸富祥彦 著
2008-02-26 『生きがいの創造?』飯田史彦 著


 ニーチェによる「ルサンチマン(フランス語で恨み)=怒りのエネルギーを溜め込む」を抱きやすいのは、根深い欲求不満や自己肯定感の欠如、孤立による視野狭窄、他人のせいにする他責傾向などあり、許せないことの連鎖(攻撃者との同一化)につながっていくこともある。


 著者はこうした状況から抜け出すステップとして、第4章p112〜で、4つのステップを示し、1)「傷つき」を認識する、2)「怒り」を受け入れる、3)相手を理解しようとする、4)「許せない」関係にけりをつける、とし、セカンドベストとしての「どうでもいいと思えるようになること」としているが、時間と距離をおくことしかないのかも知れない。次の第5章でさらに踏み込み「許さない自分を許す」ということか。


 p170〜の“おわりに”では、許せない気持ちに気づいた時の3つの出口として、
1)自分の気持ちをきちんと伝えてやめさせる
2)距離を置く
3)怒りをバネにして許せない相手を見返すために頑張る
ことをあげている。


 ここまで書いてきて、改めて冒頭のストーカーや騒音による隣人トラブルなど顧みると、当事者同士に距離や時間をおいてもらうために、何らかの強制力で引き離すしか、解決策はないのだろうか?
  


{2016/5/29-6/1読了、6/4記入}