読書録

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不寛容な時代のポピュリズム

不寛容な時代のポピュリズム

不寛容な時代のポピュリズム

 テレビや映画でのドキュメンタリーで知られる著者が、新聞や雑誌、ネットのハフポストなどに書いてきた内容をまとめた一冊で、二項対立による善悪二分化p36や同質性を求める集団化p240などが強まる今に対する危機感が、随所に繰り返し登場する。欧米やアジアのメディアがよく使う右傾化・保守化は正確ではないという。オウムによって始まった集団化が、東日本大震災でさらに加速したという。
 今月行われることになった総選挙をめぐって、小池都知事希望の党の代表になり、民進党が党公認を立てないなど、目まぐるしく状況が変わっている。週末の情報番組でもほぼすべてが取り上げ、関心も高まってきているように思える。自民vs希望という二項対立や、希望が改革保守を標榜していることなど、本書には考えておきたい視点やヒントがたくさんあるように思う。


 対比として紹介されている諸外国の例が、興味深い。
ノルウェーでは死刑を廃止し、最高刑が21年になりp9、寛容化によって治安状態が向上したp38
⇔厳罰化進む米英など治安は悪いp10、共通項として二大政党制:日本でも郵政民営、政権交代など二項対立選挙p11
◇ドイツのメモリアルデーは、アウシュビッツ解放1/27とヒトラー組閣1/30で加害の記憶p261、p271、
⇔日本は終戦の日、「振り返らない。検証しない。後悔しない。反省しない。悩まない。悲しいほどに現在進行形だ。そして同じ過ちをくりかえすp263」
◇映像とラジオの登場でマスメディアが誕生した帰結のひとつが、同時多発的なファシズムの形成&アメリカでのルーズベルトや、ルワンダ虐殺など、メディアが戦争の最大の潤滑油になっているp174
ヒトラーは『わが闘争』で、プロパガンダが一番効力を発揮するのは、国民が、善か悪か、白か黒かなど二元論的に収斂していくとき&メディアが二項対立を促進してファシズム形成の潤滑油になったが、社会の合わせ鏡p176
+集団は連帯を求めながら外部の敵を可視化しようとする。大義を強引に捏造して敵を設定する。そして自衛を理由に攻撃する…この国はアメリカに依存、従属し、容易に集団化する。自衛や抑止力のリスクが露骨に現れるp273

 
〇発刊した青土社のサイトに目次あり→ http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3047
(この読書録で青土社が登場するのは、今回が初めて)


 著者がオウム裁判のラジオ出演を依頼された際に、『A3』を読んだかを確認して出演を決めている(p242)、この読書録を検索して、読んでいたことを思い出す。
・2011-03-28 『A3』 森達也 著 http://d.hatena.ne.jp/MrBooPapa/mobile?date=20110328
2009-04-02 『世界を信じるためのメソッド』 森達也 著 http://d.hatena.ne.jp/MrBooPapa/mobile?date=20090402


 このうちメソッドの方は、メディアリテラシーについて青少年向けに書かれた本だが、本書でもメディア論についてさまざま論じているので、いくつか引用して、以下紹介。
◇「日本」や「日本人」を強調しながら賞賛する書籍やテレビ番組が急激に増え、自画自賛傾向が強まるp40
→『アンブロークン』の上映中止運動があったが、かつて『海と毒薬』などあり。かえってイメージ悪化ではp49
◇70年代前後は主観的ドキュメンタリーあったが、テレビ局が大企業になる過程で、「公正中立・不偏不党」というドグマに回収p104+
◇映像リテラシーを身につけるには、ごく普通の違和感を捨象しない当たり前の感性と、情報とは視点によっていくらでも変わるという原則p168
◇勉強会で、TBSプロデューサーが日テレ報道部ディレクターに、なぜ有事法制をやらないかと訊くと、「数字が来ない」と答え、最大多数が興味を持つ事柄がニュースと定義すれば、論理は正しいp171→市場原理に従属するが、オルタナティブの一つが、受信料で成り立つ公共放送、ただ、民意の束縛からはのがれられないp172
◇メディアは市場原理から離脱できない、市場である世論が賢明さを獲得すればメディアも思慮深くなる、そのためには公正な情報が担保されることが第一の条件、だとスパイラルに。卵と鶏の例えだが、世論にに可能性p180
◇ドキュメント映画『ガレキとラジオ』やらせ問題で、朝日の報道も騒動になったが、『経』に掲載した記事をウェブに転載するp196とのこと。この記事は現在も掲載中→ http://diamond.jp/articles/-/51954 『2014.5.26
ドキュメンタリストが守るべき最後のルール』
◇権力は暴走し腐敗するのが世の習いなのに、この国のメディアは権力を監視する機能を放棄しかけているp267


 最後に、「個が弱い民主主義」が国が誤った方向に進むことにお墨付きを付けないための方法として、著者は以下の3つを提言している。
1)国民一人ひとりが情報に対してのリテラシーをしっかりと持ち
2)自らが主権者であることを明晰に自覚して
3)さらに被害だけではなく加害も含めて正しい歴史認識を持つ


 北朝鮮の核・ミサイル問題と米トランプ政権の対応で、連日メディアを賑わし、かつ総選挙に突入することになった。ただ、これを書いている現時点、どういう選挙構図になるのか、よくわからない。
 メディアの状況では、9月28日の「スッキリ」に出演していた宇野常寛氏の発言、ちょうど見ていたが、総理も都知事もバカとしたうで、ただベストよりベターをなどと、なかなか突っ込んだ発言をしていた。検索すると、ついっぷるトレンドで、現時点でもまとめを見ることができるので、リンク先を紹介→ https://tr.twipple.jp/y/44/e0/%E5%AE%87%E9%87%8E%E5%B8%B8%E5%AF%9B.html

 この関連の記事、元記事を引用したライブドアとヤフーのリンク先
http://news.livedoor.com/article/detail/13674310/
宇野常寛氏が「スッキリ!!」を卒業し挨拶「このたびクビになりました」 』(スポニチアネックス)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170928-00000042-dal-ent
宇野常寛氏がスッキリ!卒業「物言うコメンテーターはいらないということで…」 9/28(木) 10:34配信』(デイリー)

 選挙とメディアの関係、これからも注目していきたい。


{2017/9/22-26読了、記入は10/01日曜}