読書録

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キャスターという仕事 岩波新書 新赤版 1636

23年間にわたり、「クローズアップ現代」のキャスターを務めた著者が、その思いを綴っている。ハルバースタムの「テレビのエンターテイメント化」への警告を、冒頭とラストに引用し、テレビの報道番組は、課題が複雑化する中で、合意形成に向けて考える材料や議論を促す「情報のプラットフォーム」が求められているというのは、その通りだろう。


発刊した岩波書店のサイト→ https://www.iwanami.co.jp/book/b279043.html


 備忘録としていくつか引用
◇1993年4月15日のハルバースタムの講演:テレビが伝える真実は映像であって言葉でない、単純で複雑なこと・政治問題や思想、様々な行為の重要性については伝えない、伝えることはできない。その理由は、映像のインパクトが優勢され、移り気、複雑なことは好まず、視聴者を退屈させないことが大切だから。既存の偏見を認める傾向になるが、ジャーナリズムに携わる人間は、テレビをいかに賢く使うか毎日考えるべき(p8-9)

◇キャスターとして「想像力」「常に全体から俯瞰する力」「ものごとの後ろに隠れている事実を洞察する力」、映像では見えな部分への想像力を言葉の力で喚起するたことを大事にしながら、日々番組を伝え続けるp12
+テレビ報道3つの危うさ→1)事実の豊かさを、そぎ落してしまう、2)視聴者に感動の共有化、一体化を促してしまう、3)視聴者の情緒や人々の風向きに、テレビ側が寄り添ってしまう
→多様性の視点、異質性の視点を踏まえた問いかけが重要で、問いを出し続けるp20
+キャスターの4つの役割(p68-78)→ 1)視聴者と取材者の橋渡し役exアマチュア目線、2)自分の言葉で語るex前説、3)言葉さがしexウーマノミクス、4)インタビュー(準備は徹底的にするが、あらかじめ想定したシナリオは捨てること。大事なのは、きちんとした答えを求めて、しつこくこだわることp150)

◇1993年6月の新党結成羽田代表へのインタで、「NHKは思っていたよりも政治の伝え方において自由なのだという印象を、この時期にもった」p55

◇番組を提案したディレクターや記者に「一番伝えたいことは何ですか?どんな想いで取材したいと思ったのですか?」と尋ねたp89

◇衝撃的な記憶で、脚本家の倉本聰さんが、VTR「サンタとクリスマス」リポのあと「全然違う、俺は帰る」(1995年12月)p116

◇(出家詐欺)番組の品質チェックのあり方や、制作に関わるスタッフ間での情報の共有化は大きな課題だ。しかし、取材、制作の現場で「過剰な演出」「事実のわい曲」はなぜ行われたのかについての検証は、さらに重要なことのように思えた…なぜ行われたのかという視点が重要だったはずだ。そこには、テレビ報道の陥る危うさが潜んでいると私には思えたp185…報道番組のなかに持ち込まれている、わかりやすさの要請、その行き着く先として、目立つもの、面白さを追い求める風潮に流されてしまっているのではないだろうかp189

◇p210:ジャーナリズムの機能は第一義的には権力の監視機能だろうが、社会的弱者に対する感受性、想像力を発揮して、社会全体がその痛みを共有するよう、弱い立場に置かれた人々が抱える問題を広く伝えることもジャーナリズムが果たさなければならない重要な役割だ。

◇2015年9月、国連総会採択の「SDGs(持続可能な開発目標 Subustainable Development Goals)2030アジェンダ」で、アミーナ・モハメッド特別顧問のインタビューの言葉「地球は私たち人間なしでも存続できますが、私たちは地球なしでは存続できません。先に消えるのは私たちなのです」p227

◇(降板理由が番組のリニューアルだったが、ここ1、2年のいくつかが浮かび)ケネディ大使へのインタビュー、菅官房長官へのインタビュー、沖縄の基地番組、「出家詐欺」報道…キャスターは替えずにいきたいと最後まで主張したと、あとで耳にした。それを聞いて私は、キャスターとしてこれまで23年間続けてきて、本当によかったと思ったp228

◇番組を担当した四半世紀近くの間に一番変化したのは、経済が最優先になり、人がコストを減らす対象とされるようになったこと、一人ひとりが社会の動きに翻弄されやすく自分が望む人生を歩めないかもしれないという不安を早くから抱き、自分の存在を弱く小さな存在と捉えるようになってしまったのではないかと思っていた…組織の管理強化によって、社会全体に「不寛容な雰囲気」が浸透していったのではないだろうか。番組がスタートしたころと比べて、テレビ報道に対して不寛容な空気がじわじわと浸透するのをはっきりと感じていたp232+ここ2,3年、公平公正のあり方に対して今までとは異なる風が吹いてていることを感じた…たとえば特定秘密保護法案については、番組で取り上げることができなかった、安全保障関連法案については、参議院を通過した後にわずか一度取り上げるにとどまったp237

◇最終回ゲスト柳田邦男さん「危機的な日本の中で生きる若者たちに八か条」
1)自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える時間を持つ。感情に流されずに論理的に考える力をつける
2)政治問題、社会問題に関する情報(報道)の根幹にある問題を読み解く力をつける
3)他者の心情や考えを理解するように努める
4)多様な考え方があることを知る
5)適切な表現を身につける。自分ん考えを他者に正確に理解してもらう努力
6)小さなことでも自分から行動を起こし、いろいろな人と会うことが自分の内面を耕し、人生を豊かにする最善の道であることを心得、実践する。特にボランティア活動など、他者のためになることを実践する。社会の隠された底辺の現実が見えてくる
7)現場、現物、現人間(経験者、関係者)こそ自分の思考力を活性化する最高の教科書であることを胸に刻み、自分の足でそれらにアクセスすることを心掛ける
8)失敗や壁にぶつかって失望しても絶望することもなく、自分の考えを大切にして地道に行動を続ける


 簡略にするつもりが、とても濃い内容で引用が多くなってしまった…ただ、柳田邦男さんの最後の八か条など、若者でなくても、考え方の参考にしていきたい。


{2017/5/7-9読了、記入は13土}