読書録

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人生にはやらなくていいことがある ベスト新書 538

 壮絶な生き方だ。出版をめぐる裁判もあり、著者の本を読んだかどうか、この読書録を作り始めてから記録はないが、芥川賞受賞作の『家族シネマ』は映画化され、見た気がする。

 博打打の父が金を入れず、母は伊勢佐木町のキャバレー「ミカド」で出会った男性と不倫になり、残された4人の子ども(p78)の大変さ、恋愛を経て暮らしを共にした演出家・東由多加氏とネットでのファン・ムラカミくん二人との出会い(p104)、そして子どもと南相馬に移住した経緯など、これまでの「過去」を否定せずに「後悔」から目を逸らさなかった(p7)と細かく描きつつ、「絶望を抜ける小道は『生活』にあるp70」「人間は、死ぬまで生きているのですp180」と今の心境や未来へ向けての思いを語っている。

 本著の中で、SNSとの関連で、
▽ラジオ「ふりにひとり」に出演することになったのは、ツイッターでの発信がきっかけてディレクターから依頼があったこと(p66)や、
▽作家は金にならないと発信しないのが大多数とは思うが、著者は「SNSを著者と読者を繋ぐ窓だと考えています」とし、タイムラインで「一人ひとりが抱える世界の多様性を実感できます」(p88)と評価する姿勢がうかがわれる。

 心に残るエピソードとして、横浜共立学園からの処分や退学をめぐり、木田先生の、(100匹の羊で迷う1匹を助ける聖書の教えから)「群れからはずれて苦しんでいる柳さんを退学にするのはおかしい」と反対したことや、舞台をすべて見に来ていたこと、また行けなかった時に届いた手紙「あなたの声で、あなたの歌を、一生歌い続けてください。その歌に共鳴する人、その歌で勇気づけられる人は必ずいます。ますますの成長を祈っています」(p163)など。著者が原発事故後に鎌倉から南相馬に通う日々の中で唱えていたのは、学園の生徒手帳からルカによる福音書、第10章27節で、「隣人を自分のように愛しなさい(p167)」と引用しつつ、この言葉を実践することのむずかしさを噛み締めているという。

 また、暮らしの中の些細なことの衝突や摩擦(p118〜121)は、あるある、というか、床を拭くのに、雑巾かティッシュペーパーか、で1週間口をきかないとか、アイスについてくるプラスチックのスプーンを使うか使わないかとか・・こういうこと、ありますね。お金に対する考え方で、やりがいや生きがいは買えない、仕事を選ぶときは、いったんお金を切り離して考えた方がいい(p76)、何に価値観を置くかによって異なる、というのも同感です。

 
発刊したKKベストセラーズのサイトに目次あり⇒ http://www.kk-bestsellers.com/cgi-bin/detail.cgi?isbn=978-4-584-12538-0

著者のオフィシャルサイトで本の紹介()→ http://yu-miri.com/?p=169
→ 本著で紹介されている、「福島県立小高産業技術高等学校」校歌の作詞・作曲の経緯について、説明へのリンク有
→ 著者のツイッターアカウント: https://twitter.com/yu_miri_0622 


 印象に残ったフレーズを、p54より以下に引用。
◇日々の何気ない暮らしの中にこそ、掛け替えのない「今」は在る。
 どんなに不幸な境遇の中にも、どんなに絶望的な状況下にも、キラキラときらめく波間の光のような幸せが射し込む瞬間はある。
 その瞬間を、イモムシのように感じながら、わたしは「今」を生きていきたい。


{2017/03/31-4/3読了、記入は4/9日曜}