読書録

読書整理用のダイヤリーから移行しました19/1/26土~

武器としての人口減社会 国際比較統計でわかる日本の強さ


 少子化で日本の将来は暗いという論調が多い中で、本著では、経済協力開発機構OECD)東京センター長の村上由美子氏が、OECDの国際比較統計の豊富なデータを紹介しながら、人口減を最大限に生かすための政策を提言している。

 このひとつ前に読んだ山田昌弘氏の提言にも通じるところがあり、第三章のタイトルにあるように、「女性は日本社会の “Best Kept Secret”(最高の秘密、隠し玉)」p123を活かしていくことが求められているのだと痛感する。なおこの言葉は、ゴールド・マンサックス証券時代の上司、トム・モンタグ氏が、女性の登用や抜擢を行った理由として、「会社を強くするため」であり、多くの日本企業が優れた女性の能力を活かしきれていない認識をもち、リーダーシップを発揮したという。

 時代認識として、ICT−AI革命=この技術がもたらす労働市場の変革は、労働力不足に直面する日本にとっては、その不足を解消するするための妙案p19ということも、よくわかる。これから必要とpされる人材は、こうした最先端技術との協業を出来る限り効率的に行い、人間の判断力を必要とする領域の仕事を創造的に進められる人p18というのも、その通りだと思う。タイピストのような職業はなくなり、ウェブデザイナーが登場する+過去30年を分析してルーチンワークは減り、非定型の対人的業務と分析的業務が増えていく、という紹介もデータに基づいていてわかりやすい。

 そして将来の方向性としては、下記のリンク先に紹介するインタビューがまとまっていてわかりやすいが、「今まで参加してこなかった、女性や、外国人、若者などの異なる価値化を持った人を重要なポストで登用することは、イノベーションを生むことになる…日本ほどセカンドチャンスをつかむための人的資本に恵まれている国もないのに、今は非常にもったいない状況で、人口減少社会だからこそ、今までの働き方を大胆に変えることができる」ということが求められているのだろうと思う。

 著者本人が、アメリカで2人、日本で1人子どもを生み、家政婦の手をかりながら子育てをしてきた経験を持つが、有給産休はいずれも4か月程度でフルタイムに復帰した(p104)というのも、キャリア形成を考えた時には現実的なのかと思う。むしろ3歳までは家庭で女性がというような雰囲気こそ変えていかないといけないとも暗に伝えようとしているのかも知れない。


発行した光文社のサイト⇒ http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334039370

blogos(知のネットワーク – S Y N O D O S –)に本著について著者のインタビュー記事あり⇒ http://blogos.com/article/195855/


 本著はデータが豊富で示唆にとみ、たくさん紹介したいが備忘録補足で一部を以下に引用
◇今後、ハイブリッド人事として、日本的な安定した人事戦略に成果主義を融合させて競争力を高める。そのため、新卒採用と中途採用のバランスを見直し、成果主義と長期雇用を両立させるp67+正規労働者と非正規労働者との二重構造を是正するp68
◇ベビーシッター費用の税制措置が2015年8月に発表されながら見送りになったが、意識改革で期待p110+アメリカでは女性が昇進できなかったのは能力ではなく出産したせいで差別的待遇を受けたとして集団訴訟を起こすケースもあり、数億円にも上る賠償金が支払われたこともp113
◇WLB問題が具体化するタイミングで、女性の勤続意欲に影響する要素で、ローモデルの存在は重要p116、証券時代の上司デビッド・ピニア最高財務責任者CFOは、子どものバスケの試合を見に行った後でパソコンに向かい、自宅から電話会議も行う、仕事の成果はオフィスにいる時間ではないことを自ら示す+人生のプライオリティを見極めることが大切で、本人はのちに「★家族が最優先+二者択一である必要はなく、選択を必要としない状況を自分で作りだしていくべき」と答えるp120
◇優秀な上司であれば、部下が仕事の効率を高めて成果がでるような工夫をして指示を与える。p136
◇多忙な証券業界にあって、株式部門の最高責任者ボブ・スティール氏が仕事がらみのディナーをしないと宣言。その背景に、朝が早く夜は顧客と飲むことが多いのに、上司や同僚とあったら休まる暇もない、夜の席では情報源が偏っている可能性がある、朝と昼のミーティングは歓迎するとのやり方は、今後の働き方の参考になるp138
◇p184:★新たな価値を生み出す新たな発想、新たな気づきは、画一的な思考をする人々の集まりからは生まれにくいものです…多様な経歴、価値観を持つ人材が生み出す発想を経営に活かすことが、企業競争力につながるのです
◇この国は「人」「物」「金」の成功のための三大要素すべてを揃えているといえ、重要なのは、少子高齢社会の日本を悲観することではなく、課題先進国としての優位性を認識し、それを日本の武器にして戦っていくことなのですp192


 ダイバーシティ推進の発想も、まさに著者の考え方がベースかと思うのだが、現実の職場を振り返ったときに、どこまで浸透していると言えるのか悩ましい。さらに、電通社員の過労自殺長時間労働の削減について進む可能性があり、好ましいことだと思う。
 一方で、著者や証券時代の上司が経験してきた、育児休業は4か月程度、子どもと過ごした後仕事をする、というような、キャリア形成と関連したやりがいや働く意欲、のようなことについてもどう維持していくのか、これもまた試行錯誤するしかないのだろう。


{2016/10/31-11/1読了、11/6記入}