読書録

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ネットと愛国

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

読み応えのある一冊だった。「私は知りたかっただけだ…ただ在特会に吸い寄せられる者の姿を知りたかったのだ」(p357)という著者の取材姿勢をもとに描き出される当事者たちの言葉には、今の時代を切り取る鋭さがあった。

また、社会を変えたいと記者になった著者は、「マスコミは真実を伝えない」という思いについては、かつて自分が持っていたものだと回想する。

そして、希望や未来が見えにくい90年代以降、何の所属も持たない人たちが日本人というアイデンティティを求め、在特会が生まれていく背景を分析している。

生きづらい世の中を作ったのは、左翼、外国人、メディア、公務員という「敵」だと設定する。

いわゆるヘイトスピーチには辟易とする部分があるが、この動きを支えているのは、
「社会への憤りを抱えた者。不平等に怒る者。劣等感に苦しむ者。仲間を欲している者。逃げ場所を求めている者。帰る場所が見つからない者ー。そうした人々を、在特会は誘蛾灯のように引き寄せる。いや、ある意味では、「救って」きた側面もあるのではないかと私は思うのだ」(p355)という通りだろう。

自民党の安倍総裁や橋本大阪市長の言説の背景にも、著者が描き出した構図があるように思う。


(目次-引用)☆は取り上げられている人や題材
1 在特会の誕生―過激な“市民団体”を率いる謎のリーダー・桜井誠の半生;
☆2005年チャンネル桜水島総(62) Doronpaで出演
☆2007年1月20日 設立総会
☆米田隆司広報局長(49)「我々は一種の階級闘争を闘っているんですよ。我々の主張は特権批判であり、そしてエリート批判なんです」(次章p56))


2 会員の素顔と本音―ごくごく普通の若者たちは、なぜレイシストに豹変するのか;
八木康洋副会長


3 犯罪というパフォーマンス―ついに逮捕者を出した「京都朝鮮学校妨害」「徳島県教組乱入」事件の真相;
p108:「言論として許される範囲を越えて国籍や民族による差別の助長・煽動に該当する」と在特会を批判する弁護士会に対し、在特会が「言論の自由」と「民主主義」を持ち出して反論しているの点が興味深い。
p138:(サミュエル・ジョンソン愛国心は、卑怯者の最後の隠れ家である」)愛国心とは寂しき者たちの最後の拠り所ではないかと感じてしまうのだ。


4 「反在日」組織のルーツ―「行動する保守」「新興ネット右翼」勢力の面々;
☆2007年夏 在特会会長西村修平(62)の出会い
☆「NPO外国人犯罪追放運動」有門大輔代表(36)、「国家社会主義同盟」瀬戸弘幸、「よーめん」粛清訓練、「日本を護る市民の会黒田大輔
p194:在特会ビラによる在日コリアンの特権:1.特別永住資格、2.朝鮮学校補助金交付、3.生活保護優遇、4.通名制度


5 「在日特権」の正体―「在日コリアン=特権階級」は本当か?;
野村旗守『ザ・在日特権』2006年


6 離反する大人たち―暴走を続ける在特会に、かつての理解者や民族派は失望し、そして去っていく;
p230:チーム関西まとめ役の中村友幸(仮名)「他者という存在を認めないばかりか、仲間内の忠告さえ耳に入らない。ネットで拾った、ツギハギだらけの論理をごくごく狭い身内で共有しているだけ。これは暴走していくしかないだろうなどとその頃から感じていました」
p239:西村修平「鬱憤晴らしを目的とするただの徒党集団ではないか。人前で釈明もできない暴言・無責任は、愛国運動にとって百害あって一利なしである」
p246:在特会はネットを駆使し、垣根を低くし、新しい形の保守をつくりあげた。いわば自民党を疑い、従来の右翼を疑い、保守の鬼っ子となったのである。
義勇軍議長針谷大輔(46)「ネット言論をそのまま現実社会に移行させただけなんですよ…ネットも現実も地続きなんです」


7 リーダーの豹変と虚実―身内を取材したことで激怒した桜井は私に牙を向け始めた…;
小松川事件:李珍宇(イチヌ)『悪い奴』
p273:意見の異なる他者を片っ端から「朝鮮人」「左翼」だと決め付けることで、どうにか自我を保っている人に対して、私は何も反論する言葉を持たない。語彙の乏しさと貧困な想像力を憐れむだけである。


8 広がる標的―反原発、パチンコ、フジテレビ…気に入らなければすべて「反日勢力」;
☆反フジテレビ騒動は2011年7月23日高岡蒼甫ツイッター発言から⇒8/21に抗議デモ:主催者代表(36)は2ちゃんねるのオフ会で代表に


9 在特会に加わる理由―疑似家族、承認欲求、人と人同士のつながり…みんな“何か”を求めている;
☆誇りある日本の会 藤井正夫理事長(66)「在特会の連中は、みんな可愛いよ。私の前では素直な子たちばかりだ。家族みたいな関係を欲しているんだろうなあと。在特会というのは疑似家族みたいなもんだね」
松本修一(34)通称「ブレノ」動画サイドにアップロードで認められる喜び
p342:加害者は、大手メディア、公務員(教師を含む)、労働組合、グローバル展開する大企業、そのほか左翼全般、外国人「なんとなく高学歴で、なんとなく高給与で、なんとなく守られている。そんなイメージが少しずつかぶりますよね。それ以上に重要なのは、在特会メンバーの多くは、これら加害者のような存在になりたくてもなれない。そんな場所で生きているということなのかも知れません」by在特会元地方支部幹部
p347:(社会運動は理屈より勢いで、守りより変革を希求し、かつての学生運動も勢いがあったのは体制をぶち壊すことへの同感)現在の左翼は「守り」一辺倒の運動だ。平和を守れ、人権を守れ、憲法を守れ、我々の仕事を守れ。片や在特会など新興の保守勢力は、それらすべてを疑い、「ブチ壊せ」と訴える。左翼が保守で、保守が革新という、“逆転現象”が起きているのだ。
フリーライター渋井哲也(42)「反体制も反権威も、いまでは“右”の持ち物ですよね」
p351:逃げる者と追う者。それはそのまま、戦後民主主義の価値観を守る者と、それを壊そうとする者とに置き換えられる。

{10/11-17読了、記入は18}