読書録

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インターネットと中国共産党

インターネットと中国共産党 「人民網」体験記 (講談社文庫)

インターネットと中国共産党 「人民網」体験記 (講談社文庫)

2005年5月から1年余り、中国・人民日報のインターネット部門「人民網」へ出向していた北海道新聞の記者が描く実情が、実体験をもとにいきいきと描かれ、とても興味深い内容だった。

1998年に開設された人民網日本語版は、創設者が情報サービスを目指しながら、徐々に宣伝との両立を求められ、小泉元総理の靖国参拝の扱いなどをめぐっても「批判しすぎないこと」などと政府の指示があったという。この年は日本語組の十大ニュースだけ中止されてもいる。また、このネットサービスの運営にあたっては、効率化と利益をあげることもめざし、若者をとりこむためにに、政府系というより民間サイトの方に舵を切っているという。主任が指示した三つの方針は、1.権威、2.大衆化、3.信頼性をあげ、お手本はニューヨーク・タイムズだというのだから、なかなかなものだ。さらには、強国論壇という2ちゃんねるのような掲示板があって、”版主”と呼ばれる監督役が削除や議論の盛り上げなどをしているという。

また、環球時報に掲載された「中国は寛大、日本は未熟」という記事が、雑談の誤った紹介だったことや、この新聞が、小売をまとめる発行人との相談で記事を決めたり、庶民の関心に応えることをめざし、読まれるのは台湾と軍事問題という話題も新鮮だった。台湾関係では、人民網で「中国の国民党」はいいが、「台湾の国民党」の表記はダメということもあるという。

著者は言論統制の実態についても、しっかりと書き記している。現地で生き残るには「言論統制機構の部品となって仕事をこなすことが必要だと紹介したり、最良の検閲は自己検閲で自分の中にも入り込んでいた思いを伝え、共産党中央宣伝部の活動の実態も明らかにしたりしている。
『p195:ニュースは、目的に従ってつくられる』というのだ。
『p197:中宣部があるかぎり、言論統制は存続する』
また、直訴などを受け止める「群集工作部」があって、群衆の声を聞き取る党の耳となっているという。

著者が中国を離れたあとの3年間で、中国指導者がネットの動向を注視し、系統的な観察が必要だと考えるようになったといい、そのきかっけは、2007年の山西省闇レンガ工場での児童強制労働事件がネット掲示板から明るみになったことだったとのこと。

日中関係をめぐって、著者が「日本人が反日感情と呼ぶ侵略戦争にまつわる記憶は、中国人の心の底を静かに流れている」という実感は、その通りだと思う。ネットには時として過激な意見が前面に出てくることが多いが、こうした本が世に出てくることにより、理解が深まることを期待したい。そして著者が言う「底線(ボトムライン)」が、より自由にシフトするよう願いたい。

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