読書録

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『なぜ正直者は得をするのか』 藤井聡 著

『p5:「”得”をするのは利己主義者ではなくむしろ正直者なのであり、利己主義は最終的には”敗北”せざるを得ないのだ、という結論である。』と、本著の冒頭に結論が書いてあり、まさにこれを細かく論じている。

具体的には、人気のない場所でもゴミを捨てずに持って帰ることや、仕事を真面目にすることなど、社会のルールを受け入れて行動するのが一般的で、例えば「独裁者ゲーム」という1万円をもう一人の参加者にどう配分するかを聞いたときに、平均が2000円から3000円程度になることなどをあげる。約束と社会のルールを守り、公平性に気を遣うという傾向が内在していると指摘する。

また利己主義と信じる場合には市場原理主義成果主義を推し進める形になり、さまざまな配慮を施すと考えれば、慎重さを忘れることはないという。そして、皆が目先の得に目がくらんで利己主義者として振舞うことに誘惑され、実際にその誘惑に負ければ全員が大損するという問題構造が、「社会的ジレンマ」として存在し、タクシー市場問題や共有地の悲劇問題、地球温暖化問題など、さまざまな社会問題の根底に横たわっているとする。これが現代社会で頻繁に発生するようになったのは、社会的な規範の希釈化と新しい社会的状況の出現だと指摘する。

しかし、利己的な人々は自分自身は幸福ではないと思ったりする傾向が調査結果から見られるほか、利己主義者は損得の基準において敗れ去るという3つの原理を提示する。(p115)
原理1.利己主義者は、他者と助けあうことができない(互恵不能主義)、原理2.利己主義者は、いかに取り繕うとも利己主義者であることが「ばれて」しまい、自滅してしまう(暴露原則)、原理3.利己主義者に支配された集団は、集団ごと自滅してしまう(集団淘汰原理)

本書で紹介されたアクセルロッドの囚人のジレンマにおいて最も高い利益を得ることができる「付き合い方戦略」は興味深かった。
すなわち、「しっぺ返し戦略」というもので、(p121)
・まず、最初の対戦においては、必ず「協力」する。
・二回目以降の対戦においては、相手と同じ行動を繰り返す。つまり、相手が前回「協力」を選択したなら今回は「協力」を、前回裏切ったのなら今回は「裏切り」を選択する。
→利己的に意図的に考えないし、復讐と寛容の「人間らしさ」も含まれる。

また、経済競争とナショナリズムの関係を、中野剛志氏の論文を紹介しながら、「ナショナリズムの衰退とともに、日本では、人間同士、組織同士、地域同士が連携し、助け合い、協力し合おうとする傾向がことごとく衰微していったのであるp170」と論ずる。

さらに、米のジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』から、すべての文明崩壊に共通している条件が一つだけあるとして、「環境上の諸問題でへの社会の対応不良」と紹介し、現在の日本や世界が絶望的な状況であるものの、庶民として正直にかつ力強く生き抜いていくことは下方で、「公的な精神の力強さ」(p209)を、いくばくかでも支援しえることを企図したとして、正直者を応援する姿勢を示す。

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