読書録

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『高学歴ワーキングプア』 水月昭道 著

高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

大学院の博士課程を終了しても、就職率はおよそ50%で、フリーターなどの非正規雇用者として働かなければならない実態を事例をあげて紹介し、その背景として既得権を守ろうとする文科省や東大法学部の大学院重点化計画があったとする論。
2006年の博士課程修了者数が約16000人いて、そのうち死亡・不詳の人が9.2%、特に人文・社会科学分野では2601人中495人の19%というのはなかなかの数字だ。
博士号をとるのに10年かけてパチプロをすることになった白石さんや、専任と格差がある非常勤でノラ犬同然の扱いのノラ博士、などが登場する。年収600万円で必要経費や保険にも不自由しない先生と、年収200万で経費自腹、保険貯金ないバイトの非常勤の差というのが、繰り返し紹介される。


p168:彼らフリーター博士や無職博士たちは、個人の努力が足りずにそうなったわけではなく、博士が政策的に大量生産された結果、教員市場が完全崩壊をきたしたことで生みだされてしまったこと・・・現在の日本で大学院、とくに博士課程を進学することは、そのあまりにも高いリスクの割に、メリットはほとんどないように思えてしまうのである。

p192:社会全体のなかに、こうした豊富な人生経験を有する社会人たちが、大学院での学びを通してさらに高度な知識を身につけて戻ってくること。そのメリットは、健全で自由で豊かな社会環境の構築という観点に立つときに、計り知れないものがある。・・(研究者に特化した養成機関としての大学院は生涯教育の機会を提供する貢献へと役割が変わる)

p210:(学生に愛される研究室)「お互いに協力し合いなさい。決して、足を引っ張り合うようなことはしないように。相手のためになることに、力を惜しまないこと。それが、いつか自分に返ってきます」→(「利他の精神」が必要)

p212:高学歴ワーキングプアたちも、利他の精神を失い、自らが生き延びることだけを最優先した「経営優先思考」を学校法人が選択した結果、必然的に生みだされた産物であった。いわば彼らは食いものにされた被害者なのだ。・・学校が「利他の精神」を十分に発揮したならば、教育の成果が出るといわれる25年後の世界は、少なくとも今より期待が持てるものとなるだろう。


かつては大学院への進学も考えた時期があっただけに、現状についてはあまりに悲しい実態があるように思う。大学院重点化計画が原因とする分析はちょっと短絡的すぎないかとも思うが、知識社会の構築に向けては、何らかの改革が必要なことはその通りだろうと考える。

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