読書録

読書整理用のダイヤリーから移行しました19/1/26土~

『資本主義はなぜ自壊したのか』 中谷巌 著

小泉政権構造改革を理論的に支えてきた著者が、いわば「転向」したことで評判になった本だ。ちょっと遅い気もするが、図書館の予約がようやくまわってきて、ようやく読めた。

アメリカの留学経験という個人的体験から書き起こし、市場至上主義の価値を信じて、政官業の癒着構造を壊してグローバルスタンダードに近づけようとしたものの、この競争を優先する価値観が自己中心的な発想を蔓延させ、日本社会から安心安全や人との信頼関係、絆を失わせたとして、改革に賛成できなくなったとして論を進めていく。

そしてアメリカ主導の新自由主義グローバル資本主義が支持されたのは、エリート階層や富裕階層にとって都合が良かったからという仮説をたてる一方、キューバブータンで、充実した医療や国民総幸福量などの指標で存在感を示していると紹介し、カール・ポランニーの資本主義批判を解説する。労働・土地・貨幣の商品化が人間の労働からの疎外などをもたらしていると詳述し、モンスターを手なずける必要性を訴えていく。

本著ではまた、第五章「一神教思想はなぜ自然を破壊するのか」というタイトルで、日本の自然と共生してきた思想を持ち上げ、縄文と弥生の文化論や本地垂迹説に触れ、第六章では、「今こそ日本の安心安全を世界に」と題して、幕末維新の日本が外国人を驚かせた話や、「三方よし」の商人哲学から長期的な利益をめざす思想、さらに階級思想が事実上なかった日本社会の良さなどを説明していくが、最近よく見るようになった「改めて日本の良さを」の部分には若干疑念もあるものの、「環境分野での貢献に力を入れよ」という提言には、みな納得するのではないかと思われる。

確かに、成果主義の導入は、何か違和感を感じているのだが、格差が拡大している今の状況というのは、住みにくすぎるように思う。著者が具体的な施策として提言する「還付金付き消費税」で40万還付するというのは、なかなか良いアイディアなのではないだろうか。どう考えても、消費税を上げるしか手がなさそうで、それによって多少北欧型になったとしても、格差を縮小し誰もが老後に心配なく、幸せに生きて行けるのであれば、それも良いのではないか、と最近は思うようになっている。

(引用)
p18:グローバル資本主義の本質的欠陥:1.世界金融経済の大きな不安定要素となる、2.格差拡大を有無格差拡大機能を内包し、その結果、健全な「中流階層の消失」という社会の二極化現象を産み出す、3.地球環境汚染を加速させ、グローバルな食品汚染の連鎖の遠因となっている。

p68:軽薄に「構造改革なくして成長なし」だとか・・常套句を並べ立てるのは、思考停止と言っても、決して言い過ぎではないし、むしろ日本の社会を破壊することにもつながりかねない。

p105〜厚生経済学の二つの定理:マーケット原理に任せれば資源は無駄なく効率的に配分できる、税金や補助金社会保障給付などを通じて人々が納得する所得の再配分が行われれば、社会的に見て人の厚生水準が最大化されることが可能になる

p139:資本主義は本質的には暴力性を持ったものである。そして、このモンスターを上手に手なずけないかぎり、資本主義は社会を破壊し、人間とういう社会的動物の住む場所を奪い取っていく--その事実を我々は改めて認識する必要があるのではないか。

p295:合理主義が大きな破綻の淵に立っている今、「もう一つの価値観」を日本が発信することが重要なのではないか。すなわち、それは自然と共存する知恵であり、正直さを喜び、長期的な信頼関係を結ぶことの重要性であり、さらには現場主義の大切さといったことが挙げられるだろう。そして、それはひいては欧米的な、あるいは一神教的な幸福観とは違う形の幸福像を示すことにもつながる。

p322:我々がまず参考にしなければいけないのは、アメリカ流の新自由主義とは対極にある北欧の国々のあり方である。

p368:まず我々は、「欲望の抑制」ということを学ばなければならない。・・だがそのときになって初めて気づいても遅すぎるのだ。・・(グローバル資本主義という)モンスターを暴走させ、人類を滅びの淵に追いやったのは、欲望を抑えることができなかった、他ならぬ我々自身であると。