読書録

読書整理用のダイヤリーから移行しました19/1/26土~

『自由とは何か』 佐伯啓思 著

自由とは何か (講談社現代新書)

自由とは何か (講談社現代新書)

歴史を彩ってきた哲学者、社会思想史家がたくさん登場し、著者が「自由」をめぐる思想の歴史を紹介しながら、今日的な課題、たとえば、援助交際がなぜ悪いのか、なぜ人を殺してはいけないのか、など、発せられた疑問について読み解いていく。
たとえば、援助交際については、「価値」の問題であるから、社会的な問題だとして、主観ではなく、それを超えた社会的普遍化、妥当性要求をはらんだ問題であるがゆえに、個人の自由で自己責任とはいえない という。
一方、近代的自由を拘束・束縛のない状態だとする限り、自由はどうしても道徳と対立し、カントのように道徳と自由を調和させることは不可能になる。規範と道徳に正当性がなくなってくると、自由は大きな障害をもたず、緊張感もなくなってしまう。=自由の意味衰弱。


前述した『夜と霧』という、アウシュビッツでの極限状況を思えば、今の時代ほど自由を享受できることはないと思われるが、逆に著者は、今の時代、「自由」をめぐって混乱しているとまず指摘して、論を進めていく。
アメリカのイラク攻撃が示した自由のディレンマ という章では、アメリカが、政治的抑圧と戦い、自由と平等を実現するところに世界史的意味があったものの、背景には西欧が主導し、西欧的価値観のおしつけ的要素があることが課題とも指摘する。


・現代のリベラリズムの3つの柱 1.価値についての主観主義および正義の価値に対する優位、2.中立的国家 3.自発的交換


・市場競争をめぐる4つの立場 A.市場中心主義 B.能力主義 C.福祉主義 D.是正主義


最後に著者は、自由は多層性において論じなければならないとして(p283)、
・現代のわれわれは、つい自由を「個人の選択の自由」として理解してしまう。しかしその背後には、二つの次元がある。
ひとつは、「社会の是認」もしくは「他者からの評価」であり、もうひとつは「義にかなう」という次元である。
少なくとも「自由」の観念は、この三つの層の重なりにおいて論じなければならないと思う。と記し、
「義」については、とりわけ「超越的な規範への自発的な従属」とし、これが人を動かすとする。


ほかに
ホッブスの「個人の自由」があらゆるものに先んずる
ハイエクの他人から強制がないことの自由
・カントの自由は、道徳法則に従う意思の働き
バーリンの積極的自由より消極的自由の重視
マックス・ウェーバーの「神々の争い」
・ムーアの「善は定義不可能」などなど、結構ついていくのが難しい面がある・・・

{図書館から10/19借り24読了、記入は28}