読書録

読書整理用のダイヤリーから移行しました19/1/26土~

『日本の盛衰』 堺屋太一 著

副題にあるとおり、近代の100年の歴史を振り返りつつ、今後は「知価社会」に対応していくため、政府は小さく市場を自由にすべきと説いている6年前の2002年に発行された本。
今まさに自民党の総裁選のさなかで、早ければ来月には総選挙も予想される中、小泉改革と経済政策も一つの争点になっている感があるが、自由競争にゆだねて格差が広がり揺り戻すのか、いったいどんな経済政策が有効なのか、正直よくわからない。
とりわけ、事故米を販売した三笠フーズの問題は、規制緩和の悪い面の象徴のように取り上げられているが、自由競争と規制の間のどこに立ち位置をおくかというのは、振り子のように振れるものなのかもしれない。

p5:人類の文明は・・規格大量生産型の工業社会から、多様な知恵の時代(知価社会)へと方向転換していた。
p6:日本を知価社会に変えるには、体制(レジーム)をかえ、生き方(体質)と考え方(気質)を改めなければならない。
p42:1989年、日本は規格大量生産で世界一になった。圧倒的な国際競争力を持ち、莫大な利益を上げていた。
p45:日本は以前として工業社会から官民ともに抜け出せない。それが平成の日本の没落の原因である。
p46:90年代になると、バブル景気の崩壊から、日本式経営の仕掛けが問われることになった。終身雇用、年功賃金、先行投資などの仕掛けが変更され、企業内カンパニー制が導入されたりした。いわゆるリエンジニアリングの段階である。
p71:日本の近代化は、外国からの圧力と外国に負けまいという民族意識から始まり、官僚主導によって外国を模倣することで急速に進んだ。この過程で埋め込まれた遺伝子のなかには、独創性と個性を拝する模倣主義と日本を礼賛した民族主義とが融け込んでいることをいつも警戒する必要があるだろう。

p93:(昭和16年体制による)太平洋戦争の敗戦で日本の目標から強兵は消え・・いわば武人の文化が敗戦によって否定された。それに代わって繁栄と平和をめざす日本にふさわしい新しい正義が生まれた。効率・安全・平等の3つである。
p102:戦後改革は、倫理と仕組みの変革をしたものの、「官僚主義」と「画一教育」の二つは、戦前のまま残した。
p106:戦後の日本を方向づけた2つのコンセプト 1.日米同盟を基軸として西側陣営に属し、経済大国軍事小国をめざす。 2.規格大量生産型の近代工業社会を築く ←官僚主導、業界協調体制と没個性画一教育
p132:最適工業社会の3つの特色 1.官僚主導・業界協調体制 2.日本式経営 3.職場にのみ忠実に帰属する職縁社会体質

p146:文明を決定するものとして、ヘーゲルは超越した個人の意思または時代の精神、マルクスは生産と階級の構造、シュンペーターは技術の革新を、それぞれあげたが、「より広い視野で歴史的観察をすれば、人口と技術と資源環境の3つが相互影響しながら決定的な役割を果たしていると結論付けられるだろう」。
p167:人類の文明は、70年代を頂点として強い国家と物財欲求の方向から、はっきりとUターンし始めていた。・・別の方向、知恵の値打ちの社会に向かい始めているのに、規格大量生産型の近代工業社会を追求したことが、日本の90年代の凋落とたるみの根本原因。

p176:バブル景気の罪は、1.巨額の融資の不良債権化 2.過剰な施設 3.コストの高騰
p186:政府の景気対策が十分な効果を上げなかった原因の一つは、細かくアクセル(景気振興策)とブレーキ(引き締め政策)を切り換えたことにある。
p199:日本経済は今、失業率は高く企業の業績は振るわず、物価と賃金は大幅に下落→深刻なデフレーションなのである。
p217:日本の貯蓄過剰を解消し財政均衡を回復するためには、急増する高齢者が楽しみと誇りのある日々を送れるような社会構造とサービスの供給、誇りの持てるような社会貢献の方法を創ることが先決だろう。

p258:知価革命がはじまったー情報化と主観化:今起こっている変化は近代工業社会とは異なる世の中が生まれるというニューパラダイム論。・・情報化の進展は、ビジネスのしくみを変える以上に、個人的な満足を得るための情報量の増大に利用されている・・
p274:都心部の高層マンション・・職住合体化・・知価社会では、「歩いて暮らせる街」が求められる。それが知価創造力を高めることにも、高齢化と環境保全に対応することにもなるからである。

p283〜知価革命を進めるためには・・●政府を小さく希薄にすること=官僚の規制と干渉を減らした方が良い 変動の激しい世の中を安定化するためのスタビライザーは、市場機能として完備する必要がある。
p285:人口の減少が経済の繁栄と文化の開花を促した例はいくつもある。典型的なのは15世紀のイタリア半島ルネッサンス。人口が減少したため生産性の低い土地は捨てられ、生産性の高い土地と職業に人口が集まった。商工都市の発展と封建諸侯の没落。
p286:一人の人間が同時に複数の宗教を信じる習合思想、律令制度そのままに幕府、勤勉と清貧の両立する思想、日本人の考え出したもの。この国の人と富と知恵を効率の高い部分に流れ易くすることだ。
p286:知価社会とは、変化の激しい社会であり、それ故にこそおもしろい世の中である。

→引用が長くなってしまった・・それぞれ論旨としては面白いし刺激的ではある。この本が発行された2002年のあと、日本は、それこそ、実感とはかなり違うが、いざなぎを超えた景気回復期?になったともいう。それは知価革命に対応したからなのかというと、そういう感じは持てない。世界で金融不安も起きる中で、経済は、そして社会はどうなっていくのだろう。

{図書館から9/5借り14読了、記入は17}