読書録

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事故がなくならない理由

事故がなくならない理由 安全対策の落とし穴 (PHP新書)

事故がなくならない理由 安全対策の落とし穴 (PHP新書)

安全な車は乱暴運転を促したり、低タールタバコがガンを増やしたり、心理的な側面を考えない安全対策や施策には意味が無いことを、豊富な事例やこれまでの実証研究をもとに解説している。そして本著のラスト(p208)では、「誇りと希望が安全な社会への鍵」という小見出しで、「誇り高く生きること、将来に希望を持つこと、この二つが安全への動機づけの鍵であるなら、だれもが誇り高く生きられる社会、だれもが将来に明るい希望を持てる社会を創ることこそ、日本をより安全な社会にする鍵となるのではないだろうか」と結ぶ。その通りではあるが、それが見えにくい現代社会であるからこそ、事故や自殺がなくならないと思う。一歩一歩、よい方向に向かっていくよう、努力し続けるしかない。本著で紹介されている「確実性効果」や「ギャンブル的認知バイアス」など、心理学的になるほどという知見を多く得ることができたのは、とても面白かった。


(目次ー引用)
第1章 安全装置が裏目に出るとき;
◇「安心は人間の最大の敵である」(シェークスピアマクベス)や「高名の木登り(吉田兼好徒然草
⇒子守唄効果=ララバイ・エフェクト:安全対策が子守唄のように人々を安心させまどろみに誘い、危険が大きくなる


第2章 失敗は訓練で防げない;
◇運転教習の義務付けが必ずしも事故減少につながらない社会的実験


第3章 リスク・ホメオスタシス理論;
◇対策や訓練が事故や失敗のリスクを低下できないのは、人間がリスクを増やす方向で行動を変える「リスク補償」
◇ABSの実験等で、リスキーな方向に変化してベネフィットを取りに行く
◇賛否両論があるが、技術開発において、人間心理も考慮に入れ、行動変化の可能性を事前に検討しておくことの必要性と重要性に留意すべき


第4章 なぜ人はリスクを求めるのか;
◇リスクは悪い結果が起こる可能性=損害額×損害の生じる確率
◇リスクの効用=挑戦で覚醒作用(カテコールアミン)と乗り切って快感(エンドルフィン)と二重の悦び


第5章 なぜ事故が起きるのか;
◇リスクの 1.知覚→2.評価→3.意思決定→4.回避する/テイクする の4段階。
◇不安全行動&違反←信頼性工学の定義にたてば、ヒューマンエラー
◇SHELモデル(ホーキンス)、ソフトウェア、ハードウエア、環境、人間で、Lに意図しないエラー要素


第6章 リスク認知とリスク判断;
◇2011年5月JR北海道トンネル事故や、1981年10/31防災無線誤報で「正常性バイアス」〜リスク感受性が鈍い
◇パニック発生の4条件(広瀬忠弘)1.緊迫した状況共有、2.危険を逃れる方法がる、3.脱出は可能だが安全は保障されない不安感、4.正常なコミュニケーションが成り立たない。
◇リスク因子は「恐ろしさ」(横軸)「未知性」(縦軸)「人数規模」→未知でかつ恐ろしい(第1象限)など4つ
◇★ダニエル・カールマンのノーベル賞(ツヴァイスキーとの共同研究):リスク判断には主観的要素→確実性効果(100%利益の選択):利益の出る場合
←A100%の確率で8万円もらえるのと、B85%の確率で10万円もらえる、どちらを選択するか?期待値はBだが、多くの人はAを選ぶ
←損する場合は、逆で「ギャンブル的認知バイアス」:損をしなくてすむ選択肢が好まれる
◇★話しあうとリスキーな判断に:ウォールラック(ワラック)による実験、集団意思決定のリスキーシフト


第7章リスク・コミュニケーション;
◇素人と専門家の判断の違い→中谷内一也『リスクのモノサシ』比較のセット(以前読んだ記憶あり)
◇ゼロリスクにできる技術的可能性がないと言う方が、支払い許容額が少ないなど関連あり


第8章 リスク行動の個人差;
◇リスク・テイキングの場面一貫性:リスキーな行動傾向の人は他でも。
◇★「腐ったリンゴ理論」:エラーや事故を起こす一握りの悪い従業員を追放すればシステムの安全性が確保できる
→エラー可能性のある10%を排除するより、全員のエラー可能性を10%低減する方が全体の安全性は向上


第9章 リスクと共存する;
◇墓標安全から予防安全へ:ミスを排除しあってはならない事故→マネジメントする必要:ハインリッヒの法則
◇「許容しうるリスク(対策不要)」という判定:限られたリソースの効率的な配分:優先度の高い対策から実施
◇リスクの目標水準を下げるため、安全への動機づけを高める4つの戦略
→1.避ける行動の利益を増やす(保険の引き下げ)、避ける行動のコストを減らす(安全器具に補助金)、とる行動のコストを増やす(罰則強化)、とる行動の利益を減らす(タクシー料金の時間制)
◇職業的自尊心は、仕事の技量を高めたいというタイプの業務意欲と安全態度を支え、ルールを破ってでも工程を守るというリスキーな行動を抑制し、様々な心理的要素を介して安全行動意図にプラスの影響を与えていることが明らかになった(p207)


{2/3-8読了、記入は11}