読書録

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『ルポ貧困大国アメリカII』 堤未果 著

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

前著では、ブッシュ政権下で跳ね上がった軍事費のしわよせが、社会保障費の大幅削減になり、拡大した貧困層の多くが教育や医療、最低賃金を求めて軍隊に入隊する姿を描き出していたが(p5)、本著では、以下のような課題を、豊富なインタビューを通じてルポルタージュしている。
・学資ローンの「サリーメイ」が自らの権益を拡大して公教育を借金地獄にしていることや、
・GMが組合の要求で福利厚生を充実させ年金を先送りにしたために破綻し、OBが医療費や年金で苦しんでいること、
・多くの企業が年金の負担減のために、401kなど確定拠出型年金に移行させてきたこと、
アメリカ人が最低限不自由のない退職生活を20年送るためには、少なくとも50万ドル(5000万円)が必要なのに、医療コストや処方薬代などが高騰して困難な事態、
・単一支払い皆保険制度の導入がアメリカでは医療保険や製薬など民間業界の圧力によって議会で変質させられ、なかなか導入されないこと、
プライマリケアの医師が稼ぎが少ないため過重労働になり人も減っていくこと、
・刑務所の労働力がインドより安く、民間ビジネスとして成り立っていること、←p173:電話オペレーターサービスの広告「大三世界以下の低価格で国内アウトソーシングを」
・軽犯罪の取締強化・厳罰化で全犯罪の抑止になるというゼロ・トランス法は、刑務所の中に都合の悪い人々を大量に囲い込むことにも、
・平和活動家や社会的マイノリティの運動にオバマ大統領が応えてもらうように働きかける運動、コード・ピンク(ピンク色の服を着ることが条件)の取り組み。


映画「シッコ」を見たときも感じたのだが、これほどひどい格差があって、オバマ大統領まで誕生させたのに、なぜ改革が進まないのか。本著では業界団体の圧力・コーポラティズムを問題と指摘するが、自由を標榜してきた思想文化的な側面も強いように思う。
保険制度の反オバマキャンペーンでは、瀕死の患者も長時間待たされる、政府の官僚が高齢患者に対する医療提供の是非を判断するためいのちに格差がつけられる、大規模な財政支出がインフレと増税を招き政府による強力な国民一括管理をもたらすことなど(p128)が喧伝されたという。
また、派遣業界は「柔軟な働き方、イコール自由なライフスタイル」などのキャッチフレーズを掲げてアメリカ国内で2番目の巨大産業となったことも、「自由競争主義」を第一に考える国民性が伺える。

ある意味で、鳩山政権を誕生させた日本でも、企業年金などまさに同じような状況が生まれているだけに、何をどうしたら良いのか、よく考え注目していきたい。


p101:元上院議会財政特別委員ジェフ・ゲイツ「(問題は金融危機ではなく)目先の利益を追って支払いを先送りするというクレジットカード体質から抜け出せるかどうか。身の丈以上に消費してきた国民が、フィナンシャル・リテラシーを身につけられるかどうか。それが今、アメリカという国が直面している真の課題なのです」

p:クレジットカード社会のアメリカで、医療費や学費の高騰、住宅ローンなどが原因で、働いても働いても借金だけが膨れ上がる悪夢のスパイラルにはまり込む国民の数は、年々増加している。

p194:囚人の弁護士「アメリカが直面している危機は、金融危機などではなく、人間に投資しなくなったことなのです」

p212:(前著は医療難民や経済徴兵制といった「行き過ぎた市場原理」というキーワード)戦争の継続を望む軍産複合体を筆頭に、学資ローンビジネス、労働組合や医産複合体、刑産複合体など、政府と手を結ぶことによって利権を拡大させるさまざまな利益団体の存在が浮かび上がってくる。世界を飲み込もうとしているのは、「キャピタリズム(資本主義)」よりむしろ「コーポラティズム(政府と企業の癒着主義)」の方だろう。