読書録

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『できそこないの男たち』 福岡伸一 著

できそこないの男たち (光文社新書)

できそこないの男たち (光文社新書)

物語を読んでいるような展開で、難しそうな遺伝子と分子生物学の話を、とても面白く読ませてくれた。
結局、”メス”が基本ということか・・冬でなければ”オス”がいなくてもいいアリマキの”人生”は、きわめて象徴的ではある。一方、こうして遺伝子を伝えていき、環境変化に耐えうる形にしていく仕組みというのは、驚いてしまう。遺伝子の研究成果では、すべての女性のルーツは十数万年前にアフリカで生まれ、その後、世界に広がっていったということのようだが、もっと研究が進めば、いろいろなことがわかるのだろう。

文章のあちこちにちりばめられた蘊蓄も楽しい。
p55:(顕微鏡の話から)私たちは、知っているものしか見ることはできない。
p104:科学の世界において、二等賞以下の椅子はない。
p144:すべての競争の世界がそうであるように、科学の世界においても、勝者が完全に勝つことはできない。そして歯医者が完全に負けることもない、と。
p166:実際、女性の身体にはすべてのものが備わっており、男性の身体はそれを取捨選択しかつ改変したものにすぎない。
p193:つまり、いつの時代でもどんな地域でも、そしてあらゆる年齢層にあっても男の方が女よりも死にやすい。
p206:Y染色体という貧乏くじを引いたばかりに、基本仕様でる女性の路線からはずれ、遺伝子の使い走り役に作りかえられた(カスタマイズ)男たち。・・・弱きもの、汝の名は男なり。
p262:その縦糸と縦糸をある時、橋渡しし、情報を交換して変化をもたらす。その変化が、変遷する環境を生き抜く上で有用である。そのような選択圧が働いた結果、メスの遺伝子を別のメスへ、正確にいえば、ママの遺伝子を別の娘のところへ運ぶ役割を果たす「運び屋」として、オスが作り出された。それまで基本仕様だったメスの身体を作りかえることによってオスが産み出された。オスの身体の仕組みには急造ゆえの不整合や不具合が残り、メスの身体に比べその安定性がややも低いものとなったことはやむえをえないことだった。寿命が短く、様々な病気にかかりやすく、精神的・身体的ストレスにも脆弱なものとなった。
p276:つまり生物学的には、男は女のできそこないだといってよい。
p277:端的にいえば、男が尽くすのはあの感覚から逃れられないからである。それは男を支配する究極の麻薬だ。それがどうしてもほしくなる。・・・p283:射精感が加速度と結合することが選ばれたのである。

(扉より)
「生命の基本仕様」―それは女である。本来、すべての生物はまずメスとして発生する。メスは太くて強い縦糸であり、オスはそのメスの系譜を時々橋渡しし、細い横糸の役割を果たす“使い走り”に過ぎない―。分子生物学が明らかにした、男を男たらしめる「秘密の鍵」。SRY遺伝子の発見をめぐる、研究者たちの白熱したレースと駆け引きの息吹を伝えながら「女と男」の「本当の関係」に迫る、あざやかな考察。

(目次)
第1章 見えないものを見た男;
第2章 男の秘密を覗いた女;
第3章 匂いのない匂い;
第4章 誤認逮捕;
第5章 SRY遺伝子;
第6章 ミュラー博士とウォルフ博士;
第7章 アリマキ的人生;
第8章 弱きもの、汝の名は男なり;
第9章 Yの旅路;
第10章 ハーバードの星;
第11章 余剰の起源

{地区センターで12/13借り16読了}