読書録

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『悩む力』  姜尚中 著

悩む力 (集英社新書 444C)

悩む力 (集英社新書 444C)

姜さんの本は、哲学的で難しい内容の印象もあったが、この本は、きわめてわかりやすい問いと漱石ウェーバーを引用しながら、比較的具体的に語られており、「他者との相互承認」の大切さを何度も語っているところには、共感を覚える。フランクルの引用もあり、やはり、悩みながらも生きていきたいとは思う。

(扉より)
情報ネットワークや市場経済圏の拡大にともなう猛烈な変化に対して、多くの人々がストレスを感じている。格差は広がり、自殺者も増加の一途を辿る中、自己肯定もできず、楽観的にもなれず、スピリチュアルな世界にも逃げ込めない人たちは、どう生きれば良いのだろうか?本書では、こうした苦しみを百年前に直視した夏目漱石マックス・ウェーバーをヒントに、最後まで「悩み」を手放すことなく真の強さを掴み取る生き方を提唱する。現代を代表する政治学者の学識と経験が生んだ珠玉の一冊。生まじめで不器用な心に宿る無限の可能性とは?

(目次)+引用
序章 「いまを生きる」悩み;
p13:自由の拡大といわれながら、それに見合うだけの幸福感を味わっているでしょうか。
p14:重圧となっているのは、変化のスピードが猛烈に速いということです。
p17:ウェーバーは西洋近代文明の根本原理を「合理化」に置き、・・価値観や知の在り方が分化していく過程を解き明かしました。


第1章 「私」とは何者か;
p41:他者との相互承認の中でしか自我は成立しないと私は言いましたが、では、他者とつながりたい、きちんと認め合いたいと思うとき、いったどうしたらいいのでしょうか。・・・それは「まじめ」ということです。


第2章 世の中すべて「金」なのか;
p54:ウェーバープロテスタンティズムの倫理と資本主義の起源:信者が私利私欲を離れて、規則正しく、一切の無駄もなく・・・結果として富が蓄積されても、それを享受するのではなく、ひたすら営利に再投資することでますます富が蓄積され、資本主義の発展に寄与したーーということです。
p67:できる範囲でお金を稼ぎ、できる範囲でお金を使い、心を失わないためのモラルを探りつつ、資本の論理の上を滑っていくしかない


第3章 「知ってるつもり」じゃないか;
p74:広義の人間の知性は、「真」「善」「美」の三つとかかわっているはずです。
p77〜:{知性のあり方と選び方の二つの方向性、一つは貪欲に知の最先端を走る、もう一つ「プリコラージュ」レヴィ=ストロースのいう「器用仕事」=目前にあるありあわせのもので、必要な何かを生み出す作業のこと、拡大解釈して身体感覚を通した知のあり方へ}


第4章 「青春」は美しいか;
p92:自分が生きている意味を考えたり、人間とは何かを考えたり、人とつながる方法を本気で考えたり、自分と世界の関係を考えてみたりする。・・(逆の)要領のいい若さは、情念のようなものがあらかじめ切り落とされた、あるいは最初から脱色されている青春ではないでしょうか・・その裏返しとして妙に凶暴なものや醜いもの、過度にエロチックなものが逆噴射することになりかねません。


第5章 「信じる者」は救われるか;
p103:信仰が生きていた時代の方が幸せだったと先ほど言ったのはこの点においてです。「何をするのも、何を信じるのも自由」というのはつらいものです。だだっ広い野原に一人ぽつんと立たされると、人はどこに行っていいかわからなくなります。迷子になりそうな不安に襲われるでしょう。それと同じことです。
p106〜意味をつかめていないと、人は生きていけません。・・何ものにも頼らずに、ウェーバー漱石のように、自分の知性だけを信じて、自分自身と徹底抗戦しながら生きていくしかありません。


第6章 何のために「働く」のか;
p122;それは、「社会の中で、自分の存在を認められる」といことです。・・働くことによって初めて「そこにいていい」という承認が与えられる。
p128:(自分自身に問うて)他者からのアテンションを求めているから、・・・それによって社会の中にいる自分を再確認できるし、自分はこれでいいのだという安心感が得られる。そして、自信をにもつながっているような気がします・


第7章 「変わらぬ愛」はあるか;
p140:結局「愛には形がない」ということです。形がないだけでなく、「愛のあり方は刻々と変わる」のです。


第8章 なぜ死んではいけないか;
p149:〜{フランクルは、人は相当の苦悩にも耐える力を持っているが、意味の喪失には耐えられないといった趣旨のことをいう}
p157:たぶん、お金や学歴、地位や仕事上の成功といったものは、最終的には人が生きる力にはなりきれないのでしょう。では、力になるものとは何なのかと問うていくと、それは、究極的には個人の内面の充足、すなわち自我、心の問題に帰結すると思うのです。・・●「人はひとりでは生きられない」・・自我を保持していくためには、やはり他者とのつながりが必要なのです。相互承認の中でしか、人は生きられません。相互承認によってしか、自我はありえないのです。●
p159:{単純に死んではいけないとはいえないが}「人とのつながり方を考えてほしい」とは言いたいのです。
p160:中途半端にしないで、まじめに悩みぬく。そこに、その人なりの何らかの解答があると私は信じています。


終章 老いて「最強」たれ
p167〜{40代末ごろ、年をとることが恐ろしい時期があった、得体のしれない不安に襲われて無性に気が滅入ることも}{両親の死、親友の死などを通して}「この世の中に、恐いものなどあるか」という心境になったのです。
p172(結語)若い人には大いに悩んでほしいと思います。そして、悩み続けて悩みの果てに突きぬけたら、横着になってほしい。そんな新しい破壊力がないと、今の日本は変わらないし、未来も明るくない、と思うのです。


{地区センターで12/13借り14読了、記入は12/22+27}