読書録

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『夜と霧』V.E.フランクル 著

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録

この本は、鎌田實さんや諸富祥彦さんが、人間はどんな状況でも生きることができるという引用でよく紹介していたが、今回、フォーラムの返却棚にあるのを見つけて、初めて読んだ。

改めてナチスドイツの恐ろしくひどい時代への怒り、そして、アウシュヴィッツに収容され、幾度の危機を乗り越えながら、なんとか生き延びる著者と、それをたんたんと著述する内容に心をうたれた。

この本は、一生の間に巡り合えて本当によかったと思える本だ。

生きることが嫌になったり、いろいろ悩むこともあるけれど、当時の極限状況においても、生きる希望を失わず、愛を感じ、時にはユーモアも交えながら生き延びていこうとする姿を感じると、やはり生きていることは素晴らしいのだと思い起こさせてくれる。

最近、無差別通り魔殺人事件が相次いでいるが、容疑者たちは、「将来への夢」を失い、自分中心の身勝手な行動に出ているように思う。ナチの強制収容所の問題は、ナチの方は、人間はここまで残酷になれるというかひどくなれるという一方の面を見せるし、収容された著者たちは、とんでもない状況に置かれてさえ、希望を持ち続ければ生きていこうとする強さを示してくれる。

子どもが思春期にいる今、どうしたら無差別殺人の容疑者にならないような育て方ができるのか、引き続き模索していくしかない。


以下引用:
p82:囚人の心理的反応の3段階 1.収容所に収容される段階 2.収容所生活の段階 3.釈放から解放の段階
p89:(最初の振り分けで、友人はガス室へ、著者はなんとかまっすぐ立つよう努力して労働側へ)
p93:幻想はつぎつぎと消え失せていった。しかし、今やわれわれの大部分を襲ったのは全く予期されないものであった。すなわち、すてばちなユーモアであった。
p99:異常な状況においては、異常な反応がまさに正常な行動であるのである。
p102:苦悩する者、病む者、死につつある者、死者、これらすべては数週の収容所生活の後には当たり前の長めになってしまって、もはや人の心を動かすことができなくなるのである。
p110:第二の段階の主要特徴としての無感動は、必要な心の自己防衛であった。
p123:愛は結局人間の実存が高く翔り得る最後のものであり、最高のものであるという真理である。・・人間は、瞬間でもあれ、愛する人間の像に心の底深く身を捧げることによって浄福になり得るのだということが、私にはわかったのである。
p124:このような状況においても・・愛する人間の精神的な像を想像して自らを充たすことができるのである。
p131:ユーモアもまた自己維持のための闘いにおける心の武器である。
p148:(病囚収容所へ行くことがガス室ではないかと疑われたが著者は生き残り、逆に残ったものは過酷な労働で死亡)
p159:(収容所に残った著者は解放され、戦争捕虜と交換されると出ていった囚人たちは餓死)生命か死かが問題であるような人間の決断が、どんなに疑わしいものであるかを体験したのであった。(テヘランにおける死というメルヘン)
p160:以上が収容所にいる間に囚人を打ち負かし、彼の精神生活を一般より原始的な水準に低下せしめ、彼を運命の意志なき対象にするか、あるいは看視兵の恣意に委せ、ついに運命を自ら手にすること、決断することをおそれっせるようにする無感動、心情の鈍麻についての描写である。
p166:人が感情の鈍麻を克服し刺激性を抑圧しえること、また精神的自由、すなわち環境への自我の自由な態度は、この一見絶対的な強制状態の下においても、外的にも内的にも存在し続けたということを示す英雄的な実例は少なくないのである。
p167:ドストエフスキーはかつて「私は私の苦悩にふさわしくなくなるということだけを恐れた」と言った。・・人が彼から最後の息を引き取るまで奪うことのできなかった人間の精神の自由は、また彼が最後の息を引き取るまで彼の生活を有意義に形成する機会を彼に見出さしめたのである。
p168:●生命そのものが一つの意味をもっているなら、苦悩もまた一つの意味をもっているに違いない。・・どんな困難の状況にあってもなお、生命の最後の一分まで、生命を有意義に形づくる豊かな可能性が開かれているのである。
p170:(病床の女性が最後の日に、快活にひどい目にあわせた運命にも感謝する。甘やかされた生活より、内面の世界に。1本のカスタニエンの樹が友達といい、この樹が「わたしはここにいる、永遠のいのちだ」と語ったという)
p175:著しく困難な外的状況こそ人間に内面的に自らを超えて成長する機会を与えるものだ。
p177:収容所の中の人間に、ふたたび未来へ未来の目的に目を向けさせることが内的に一層効果を持つことが指摘されている。
p179:未来を信ずることができなかった人間は収容所で滅亡していった。未来を失うとともに彼はそのよりどころを失い、内的に崩壊し、身体的にも心理的にも転落したのであった。
p186:●各個人がもっている、他人によってとりかえられ得ないという性質、かけがえないということは、ー意識されればー人間が彼の生活や生き続けることにおいて担っている責任の大きさを明らかにするものなのである。持っている仕事、あるいは持っている愛する人間、にたいしている責任を意識した人間は、彼の生命を放棄することが決してできないのである。●

{フォーラムで6/29借り、7/1,26の2回読了}