- 作者: 菊澤研宗
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 新書
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旧日本軍の過ちも、決して無知や非合理だったからではなく、当時の組織からすると、「限定合理的」ななかで判断されたという。今、組織に属するサラリーマンとして、いろいろ示唆に富む内容だった。どんな組織でも、「命令違反」をうまく活用できないと、組織自体が崩壊してしまう恐れがある。
著者は、不条理の本質は、二つのタイプがあり、1.正当性と効率性の不一致 2.私的個別性と社会性の不一致 で、1.の代表例としてインパール作戦を、2の代表例としてガタルカナル戦を取り上げる。1の不条理を回避するために、ペリリュー島の中川州男(くにお)のよい命令違反、ノモンハン事件での辻政信の悪い命令違反を取り上げる。また、2の不条理を回避するための、ミッドウェー海戦での山口多聞のよい命令違反と、レイテ海戦での栗田健男の悪い命令違反を取り上げる。そして、最後に、命令違反をマネージメントすることが、組織の不条理を回避し、組織を存続させるだけでなく、価値創造的に組織を進化させる原動力になるとする。(p16)
この例に出てくるペリリュー島の戦闘とは、大本営が水際作戦を命令していたのに、深く地に潜って持久戦を指揮したことをさす。映画「硫黄島からの手紙」でも描かれていた対立を思い起こすが、この作戦が硫黄島や沖縄戦において、戦術の転換を促したという。
引用している経済理論として、D.カーネマンやR.セイラーたちの、プロスペクト理論がある。人間は限られた情報のもとで主観的に最適な方法を選択しようとするというもので、参照点(レファレンス・ポイント)と価値関数のグラフが示される。このポイントから、相対的利益が増加すると心理的価値は低減する一方=感応度逓減、損失が発生することによって失う心理的価値の方が大きい=損失回避。利益が出ているときはリスク回避的にすぐに利益を確定しようとするが、損失が出ているときはすぐには損失を確定しようとしないのは、心理的には合理的なもので、投資家の心理やインパール作戦で牟田口が敗北がわかりながら中止できなかった行動の説明になる。
もうひとつの理論は、R.コースやO.ウィリアムソンたちによる「取引コスト理論」。限定合理的な人間の世界では、既存の商品が新商品より劣っていたとしても、新商品に移行するにの必要な取引コストがあまりにも高いならば、移行しようとはしない。これが、ウィンドウズやVHS方式の成功要因の一つ。公共工事が中止できない理由もこうした観点で説明できるという。
{図書館で3/31借り4/21読了、27記入}