読書録

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『怒りの方法』 辛淑玉 著

怒りの方法 (岩波新書)

怒りの方法 (岩波新書)

女性として在日として差別されてきた過去についても触れながら、「怒り」をキーワードに、人間性を回復しようと訴える。出だしは、丸一日怒っているような日常がつづられ、面白い。セクハラの講義へ行って、「では講師は若くて美しい・・」でそれがセクハラと指摘し、男性の受講者から、「あいつに触られるのはいいけど僕は嫌だというのは女性のわがままで、男を差別している」との発言に、夫とセックスするなら俺にもやらせろというのと同じと怒る。
日本名は節子で東京育ち、幼稚園に入れずに差別を受け、民族学校でも半日本人と呼ばれ、相当辛い日々を送られたのだろう。唯一親に買ってもらった本の「シンデレラ」に喜ぶ一方、儒教社会の中で兄や弟とも区別されて参考書や地球儀も買ってもらえなかったという。

p34:私が、身内から権力者に対してまで怒れるようになったのは、自分の中に私なりの確固たる基準が年とともにできてきたからだろう。
p49:(キレルは表現する言葉を失った時の状態でm人間関係を完全に切るためにするもので)怒りをきちんと表現できるようになることは、豊かな人間関係を築くための第一歩なのである。
p55:人間は何のために怒るのか。「私が私として生きるため」。この言葉が一番ピンと来る。
p57:失敗も成功も含めて、他者から肯定された体験が、怒るうえでは必要なのだ。
p60:自分を強いと感じて怒ると願望に、弱いと絶望になるという 「怒りの方程式」

きちんと怒りを表現できないために、セクハラでもつけいれられてしまうと問題を指摘する。
一方、怒りを止めようとする人は3種類いるとして、1.怒らせた本人:差別して叩くやつほど、道を説く 2.大衆:声出せば、無知な大衆、敵になる 3.巻き込まれたくない人たち:ガンバレは、飛び火を避ける、保険かな とそれぞれ教訓も示している。

また、効果的な怒りの表現力で参考になると、沖縄・伊江島の阿波根さん(米軍と農民)のやり方、(正しい行動をとり嘘偽りは語らないとか道理を通して訴えるなど)を紹介したうえで、1.恐怖心を取り除く 2.怒りを一晩寝かせよう と指摘する。そして技術として、
1.感情を簡単な言葉にする 2.同じ言葉を繰り返す 3.ストレートに表現する 4.いつもの声の高さで話す 5.相手の方に体を向け直視する 6.話の内容の具体的なポイントは「具体的な指摘」 7.一回につき一つの怒り 8.目の前の小さなことから実践してみる 9.目標を決める 10.人間関係の継続を示す、シメの言葉 とノウハウを伝えている。(p114-123)

ただ、実際に怒りにぶつけられたら、a危機的な場合は逃げること 1.その場から逃げる 2.大声で一言いう 3.連続して何度も同じことをいう b言葉や怒りをぶつけてきた場合は、相手の話を真摯に聞く 1.うなずいたりメモをとったりする 2.相手の言葉を2〜3繰り返す 3.相手の話を要約する 4.相手の感情を、相手以上に言葉を尽くして表現する などを紹介している。

ノウハウといえば、社会への新しい怒り方として、イベント化を提案し、「見る」「もらう」「参加する」がポイントという。

テレビで発言しているところを何度か拝見したことがあるが、視点がぶれず、論客と対等に渡り合っている姿は、その自信の源泉や思いが確固としたものだからだろう。ネットで、電車や図書館の女性専用席が、「男への逆差別ではないか」と論争になる中(産経のコラム記事が発端?)、、、著者のシンスゴさんには、怒り続けてほしいものだ。

{フォーラムで10/30借り11/15読了、記入は16}