読書録

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民族問題 佐藤優の集中講義 文春新書 1142 

 著者の知的バックグラウンドの深さが、本著でよくわかる。いかに自分が民族問題をわかっていないか、また沖縄の問題をどう考えればいいのか、ヒントがたくさんまれている。感度が低くピントが甘いという著者の指摘はそのとおりだろう。それにしても、ここで紹介されているような民族問題の基本書というものに、ほとんど接してこなかったということが、自分自身の課題なのかも知れない。

 本著は去年秋に発刊されているが、今月問題が浮上した東京医科大学の不正入試をめぐる問題にも、示唆に富む部分があった。p121で、近代国家においては、裏口入学とか教育上の不正に対して感情的な反発が非常に強い。私立大だったら企業として利害関係者の親族を優遇することもありえる。それが許されないのは、ナショナリズムの原理に抵触するからだという。教育制度が社会の均質化を保証しているから+国会以外の下位集団の中で学校を核に強力な紐帯を作り出されたら困るから・・・など記載あり。


発刊した文藝春秋のサイト→ https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166611423


 p182〜に、おさらい、があり、まとまっているので概略を引用→民族については、二つの考え方がある。
◇一つは原初主義:古くからあり日本は神の国だから固有の日本民族が実体としてあるという考え方だが、学問的には否定されている。民族概念はどんなに過去に戻っても18世紀の半ばよりも前に遡ることはできない。1789年のフランス革命移行に流行となった現象で、共通に認められている認識。
◇もう一つが道具主義、人工的なフィクションにすぎず、エリートが自らの支配を確立するためにつくっている概念。
◇もとになるような何かが存在すると取り組んだのが、アントニー・スミスで「エトニー理論」で、定義はp184:
「エトニとは、共通の祖先・歴史・文化をもち、ある特定の領域との結びつきをもち、内部での連帯感をもつ、名前をもった人間集団である」


 沖縄問題について、米海軍の沖縄調査秘密報告書という、4か月ぐらいで作成された文化人類学者の内容が、日本政府の鈍感さと比べて顕著だというp204。松島泰勝さんの『琉球独立宣言』p207という沖縄が自己主張を始めていることに警鐘を鳴らす。著者本人は、国家統合の崩壊を食い止めたいと、「独立論に対しては翁長知事のスタンスも私と共通している、分離主義に火がつくのを防ぐために、もっと沖縄の立場を理解してほしい」p211と記している。

 翁長知事が今(8)月8日に急逝し、ご冥福をお祈り申しあげます。9月30日に沖縄県知事選が行われる予定だが、翁長知事が演説をウチナーグチで締めくくるようになっていたことなど含め、よくよく考えないといけないと思う。ただ「当事者性のない人は関与しないのは守るべき一線」p214とも、著者は書いている。民族理論をきちんとおさえておく必要については、痛感した。


{2018/8/19-24読了、記入は8/26}