読書録

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ウェブ文明論 (新潮選書)

ウェブ文明論 (新潮選書)

ウェブ文明論 (新潮選書)

司馬遼太郎氏の『アメリカ素描』を意識して書かれたという本著は、元が文芸誌『新潮』に3年にわたって連載された『アメリカスケッチ2.0』で、書きもののあり方という形式や動機という方法の変化を試みていて、若干、理解するのに苦労するところがあるが、アメリカでの動きや思想的な背景を、うかがい知ることもできた。


本著の目次などは、出版した新潮社のサイトに掲載あり⇒ http://www.shinchosha.co.jp/book/603729/


印象に残ったポイントを以下に引用する。
◇米国防総省で開発されたインターネットには、軍に根強くあるnationとしてアメリカを一望下に収めようとする開発思想と、分散的な、それゆえstateの共存を認め人びとの多様性を保持しようとする開発思想とが混在している。p18
◇「情報は自由(=無料)になりたいが制作者は報酬が欲しい」とは、インターネットが突きつけたパラドックスで、未だ議論の途上にある。このギャップを埋めるため、ファンダムを積極的に評価しようとする気運が高まり、クラウドファンディングが登場。p110
◇p146「ハッカーウェイの中心的な考え方は漸進的改良志向にある。一度にすべてを変えるのではなく、比較的小さなユニットの変更を何度も素早く繰り返すことで、結果的に物事の全体を改善する。完璧を目指すよりもまずは完成を目指す…現場重視の職人規律といえる」
◇84年にスティーブン・レヴィが書いた『ハッカーズ』の中で、ハッカーたちの行動類型から抽出してまとめた5原則は、現場重視のアプローチを基本とし、「シェアすること」「オープンであること」「分散化」「コンピュータへの自由なアクセス」「世界の改善」で、FBのザッカーバーグが投資家向けの手紙で伝えたコアバリューと酷似。p147-148
◇ゲーム的状況とは、1.自ら参加でき、2.自ら働きかけることで眼前の状況が変わり得ると、3.信じることができる状況のこと。選挙戦はソーシャルゲームの一つに。p269
◇ウェブでの協働に慣れたゲーム世代は、アメリカではミレニアル世代と言われる。p284
◇報道の二極化:中道報道を心がけていたCNNの視聴率が下がり、MSNBC(リベラルで民主党より)とFoxNews(保守で共和党寄り)の視聴率が上がってきた。p291
◇≪ソーシャル≫の登場によって、コンピュータ技術の位置づけが、個人的利用から協働的利用に転じることができた。p321


きわめて個別的に引っかかってきたところの概略引用だけに、著者の思いは伝わらないかとは思うところは申し訳ない。ただ、『漸進的改良主義』というのは、『ネット選挙解禁がもたらす日本社会の変容』(読書録⇒ http://d.hatena.ne.jp/MrBooPapa/20130920 )でも思想として紹介されていたが、ICTのスピードの速さに対応するために必要とされてきたということか。文明としてどこへ向かうのか、それは人類にとって幸福なことなのか、今後の議論にも期待したい。

{12/15-1/10読了、記入は13}