読書録

読書整理用のダイヤリーから移行しました19/1/26土~

ゼロ年代の論点

本著にも出てくる浅田彰氏の「構造と力」を、はやりで買ったものの数ページを読んでついていけなかった自分としては、本著も、社会批評のナビゲーション的な意味はあると思うのだが、概念や内容についていけないところが多々ある。何度か読み返したり、引用されている著作群を原著から手に取るべきなのだろう。『「謎」の解像度』という著者の作品も読んでみたい。

本著で取り上げているウェブ関連の本では、梅田望夫氏、荻上チキ氏、津田大介氏、佐々木俊尚氏の著作はすでに読んでいる。また三浦展氏や速水健朗氏の社会論にも触れてきたが、どうも本著の核になっている東浩紀氏の本を一度も読んでいないのが、アーキテクチャとコミュニケーションという概念をうまく理解できない理由だろうか。

その意味では、他の批評に目を向けさせてくれたという辞書的に、本著は使えるかも知れない。第一章に登場する、東浩紀氏の「動物化するポストモダン」、宇野常寛氏の「ゼロ年代の想像力」、濱野智史氏の「アーキテクチャの生態系」、佐々木敦氏の「ニッポンの思想」、北田暁大氏の「嗤う日本のナショナリズム」、鈴木謙介氏の「ウェブ社会の思想」、前島賢氏の「セカイ系とは何か」は、今後、順次ひもといていこう。

p28(補足p76):(社会の共同体全体を支える)「大きな物語」が凋落し「小さな物語」が乱立している現状(ジャン=フランソワ・リオタールのポスト・モダン論)について、宇野は宮台真司の用語を借りて「島宇宙」化と呼ぶ。…処方箋として…氏という終わりのあるゆえに可能性に満ちた日常におけるコミュニケーションをつかみ直すことだった。…宮台ー東ー宇野という批評会の文脈を作る…東は物語の内容よりも「環境」やデータベースの分野に力を入れたのに対し、宇野は…様々なジャンルの物語について狩りなりの倫理的な判断を下していった。

p72:佐々木俊尚氏『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』より「梅田さんは常に理想論を言いすぎて反論できないから、そこで話が終わってしまう。一方で、西村さんは、あまりに現実的すぎでベタな話をしすぎて話が終わってしまう。…理想と現実のせめぎあいに生きている我々の気持ちを、2人とも理解していないな、という感じはちょっとするかもな。

p160:セカイ系とは、「きみ」と「ぼく」の小さな関係が世界の運命に直結するような物語全体の設定を指し、「ぼく」の自意識が大きなテーマになっている。それに比べ、萌えは、猫耳、メイド服といった登場人物の属性など物語展開にかかわらない部分に生じる。データベース消費である。…前島は「萌えも、自意識も、作品をみずからの内面に惹きつけて語るという点では、まったく同一である」と述べる。

やっぱり難しい………最近亡くなった吉本隆明氏には、著者はどのような批評を加えるのだろうか………千葉県出身で浦安在住、テーマパーク論を更新して地域論をまとめたいと著者は書いており、どのような内容になるか、著者が荻上チキ氏の項で紹介した「一般読者にも通じやすい文章の書ける論客である」ような存在になっていただくよう期待したい。

{3/24-27読了、記入は4/1}