読書録

読書整理用のダイヤリーから移行しました19/1/26土~

空飛ぶ広報室

空飛ぶ広報室

空飛ぶ広報室

ブルーインパルスパイロットになる夢を不慮の事故で断たれ空幕広報室に配属された元パイロットと、記者をめざしながらディレクターに異動させられた女性が、ぶつかり合いながらも自らの役割に意義を見出し成長していく、とても爽やかな読後感が残る小説。途中なんども一緒に感極まる場面もあり、久しぶりに感動した。さらに、背景になっている自衛隊とマスメディアの関係や四字熟語は、これまでの歴史を反映しているといってよく、考えさせられた。


この小説で空自が意図する“広報”の観点では、小説自体が好感度アップにつながると思われ、さらにあす4月14日から民放でドラマ化されるとなると、それこそ効果としては、本編で出てくる企画の2億円どころではなく、極めて成功しているともいえる。感動的な空自CMを就職支援団体の代表が捏造可能性に触れて新聞やテレビで批判する、という構図は、決して絵空事ではない。かつての戦争の反省から、“軍事”にアレルギーを感じ、憲法9条戦争放棄を強く意識すれば、見方も変わってくるとも思う。ただ、自衛隊員も一人の人間であり、いつ起きるか分からない有事に備えておくための組織は必要、という著者の感覚は、阪神淡路と東日本の大震災を経て、いまは受け入れられているとも感じる。その意味で、この小説には、海堂尊氏がAIの必要性を作品の随所で訴えているのと同じような、メッセージ性の強さも感じさせられた。


なお、登場人物は、さすが著者というか、脇役を含めてみなさん魅力的で、特にミーハー室長のような、幅広いアンテナや職場での対応術は、学ぶことが多い。幹部を目指さず広報を支えているベテランの「比嘉一曹」は、とても渋い味があるが、沖縄県出身者に多い名前を採用していることも、実は、著者なりに意味を持たせているのかも知れない。


≪メモ引用≫
◇(記者は)スクープを狙ってガツガツしている若手、加えてかなりの自衛隊嫌いp18
◇基地と駐屯地の違い:陸自が平時に駐在するところが駐屯地p33
◇「だって戦闘機って人殺しのための機械でしょ?」p36
◇「広報ってのは自衛隊についてどんな異論を食らっても相手を攻撃する権利はないんだ」p42

◆空は勇猛果敢・支離滅裂、陸は用意周到・動脈硬化、海は伝統墨守・唯我独尊、統幕は高位高官・権限皆無、内局は優柔不断・本末転倒p74

◇テレビの月9で最低3分流れれば、2億円の利益p93
自衛隊が動くときは基本的に不幸があったときだ。だから自衛隊は訓練を重ねながらも出動しないこと、無用の長物であることが望まれるp94
◇高校の先生は違憲だって言ってたし、憲法九条を汚す自衛隊に反対しましょうって年賀状がp116

◆(自衛隊の広報活動への疑問)内部でもあるが、国民の理解があると自衛隊は有事の際に活動しやすくなるp130

◇「記者という職を失ったんではなくて、ディレクターという職を新たに得たって考え方はどうでしょうか…自分はパイロットじゃないって思っているより、これから広報官になれるんだって思ったほうがいいなって」p142←琴線に触れる言葉

◇取材対象をすべて事件の関係者という記号で処理していた…人間ではなかった…抜かれるわけだp148

自衛隊の認知度をあげようと広報として当然の努力VS自分の職務に真剣なパイロット、立場によって違うp159

◇テレビの取材クルーは集合時間に2時間遅れてもやみくもに怒らないのは、組織としてツテを切らないためp180

◆比嘉一曹が昇進試験を受けないのは、長期的なプランのためには異動しない熟練の下士官が必要という主義p201

◆記者会見で幕長が間違えた時の三幕の違いは、陸はそっとメモを出しだして間違いを指摘、海はあくまで押し通し、空は間違っていると指摘するp248

◇CM「まだ失敗も多いけど、ついにお父さんが乗っていた飛行機を整備できるようになったんだよ」p325
◇就職支援団体代表のコラム「自衛隊の姑息なイメージ戦略にマスコミまで躍らされているのかと暗澹たる気分になった。このエピソードが捏造でない祥子などどこにもないというのに何たることか」p334
◇当初(因幡の白兎)「筆者は自衛官というだけで無条件に貶める権利があると思っているのでしょうか?自衛官も人間であり、人権を持っています。憶測で貶めるなど許されていいはずがありません」p378

◇「一番ブルーが好きな自衛官…絶対に届かなくなったのに、まだ好き…だから、僕はブルーの魅力を一番よく伝えられる」p388

◇「自衛隊が飛んでたら、僕も飛んでいるのと同じ…どんな職種でも、自分がちゃんと勤めてたら、それは自衛隊がちゃんと理解してもらえることに繋がりますよね。だから俺、どこに行っても飛べるんだって」p418

◇「働いている隊員の顔が見えるのは実によろしい」自衛隊が血の通った人々の勤めている組織だということがよく伝わる、それが大事なんだp420

◇基地が完全に水没するような被害を受けてさえ、自分たちは自衛官である彼らに被災者の資格を認めていないのだと今さらのように気づかされたp441
◇(私有地に入れない規則を基地からの危険物流出対策として活動指示)退官間際の基地司令が自分が責任をとると決断p444
◇「有事に果たすべき義務があるということは、それだけで拠り所になります。辛いことがあったとき、自分にできることがあるだけで人って救われるでしょう?だから僕たちは被災者を支援しながら、自分自身を救ってもいるんです」p452
◇(自衛隊員が冷たい飯を食べているということでなく)「自衛隊は被災地に温かい食事を届ける能力があるって伝えてほしい」p458




{4/8-13読了、記入も同日}