- 作者: 池田信夫
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2012/02/24
- メディア: Kindle版
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本著の性格を、著者は「はじめに」で、明確に示している。すなわち
「私は原発が安全だとも推進すべきだとも主張していない。原発は危険だが、そのリスクを他の発癌物質や環境汚染と同じ基準で比較し、費用対効果を最適化すべきだと言っているだけである」ということ。
そしてタイトルにあるように、「安全神話:最悪の事態でも炉心溶融は起こらない/危険神話:炉心溶融が起こると数万人が死ぬ」の二つの神話が崩壊したとする。
「最後まで読んでいただければわかる…」と著者は言うが、
◇原子力はリスク最小のエネルギー p47
◇朝日の戦意昂揚記事と「原発ゼロ」キャンペーンに共通しているのは、可能か不可能かを考えず、理想を掲げて強硬な方針を唱える主観主義だ。p94
◇多数派に迎合する日本人の特徴を「空気」の支配と呼んだは山本七平だった。p96
◇国に依存しながら国を攻撃するのが、戦前から変わらない国家社会主義者の習性だ。…共通するのは、強烈な否定への情熱である。
◇手段ではなく結果に責任を負う…マックス・ウェーバー敵に責任倫理から考えると、原子力という凶悪なエネルギーを人類は捨てることができない。
◇エネルギー政策は3つのE=安定供給できるのか、価格は安いのか、環境汚染は小さいのか、の組み合わせを最適化する連立方程式。
(締めの言葉p89〜)
・問われているのは、原子力か「自然エネルギー」かなどという技術の問題ではなく、人間か科学をいかにコントロールするかという知恵である。…科学の限界を自覚しながら、論理と事実にもとづいて考えるしか、現在の危機を収拾する道はない。われわれは安全神話に安住するのではなく、危険神話におびえるのでもなく、科学技術という厄介なものと共存してゆくしかないのである。
それにしても、“捏造”や“ニセ科学者”“福島みずほ症候群”など、いろいろな言葉を繰り出してくるが、冒頭書いていることとは別に、『反原発・脱原発』を主張する人たちへの敵意ともとれるような執拗な攻撃は、とても論理的な内容とは読めない部分があった。個人名をあげての批判など、それが自由主義の良いところといってしまえばそれまでだが、潔くないのではないか、と考えてしまうのはなぜだろう。また、『官邸から見た原発事故の真実 これから始まる真の危機』(光文社新書)で「高レベル放射性廃棄物の問題がクリアにできず、目に見えないコストの大きさを」考慮する必要性を当時の政権内側から説いている。締めの言葉が美しいだけに、本著では、この将来への視点がほとんど触れられていないのが残念。
{1/4-6読了、記入は1/15}