読書録

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シアター!

シアター! (メディアワークス文庫)

シアター! (メディアワークス文庫)

読後感がとっても清々しい一冊。赤字で借金を抱えた小劇団「シアターフラッグ」を主宰する春川巧の兄・司が、劇団にお金を貸す代わりに黒字にするという条件をつけ、さまざまな改革に取り組んでいく、というお話なのだが、あとがきで紹介されているように、映画化で知り合った沢城みゆきさんから小劇団の取材をして小説化したという。
「小説のネタは出会い物だと思っていますが、このお話もみゆきちゃんと劇団子さんに出会わなかったら生まれていません。出会いに感謝しつつ、これだと思う物に出会ったときにそれを掴む握力と瞬発力は日ごろから鍛えておきたいなぁと思っております」(p126)と書き、3か月弱で書き上げるというのはすごい。他の場面でも、こうした著者の姿勢は見習いたいと思う。

この物語に惹かれるのは、夢を追いながらも、現実との折り合いをつけていく努力、というのが、共感できるからだろうか。また、司の厳しいながらも愛情あふれる一面を見せるところに、ほろっとさせられる。

p239:ー兄ちゃんは自分が関わったらずるいことは絶対しないんだ。

⇒こんな一言が、要領よく世を渡る人が多い中で、なぜかジンと響いたりする。


p218:関わった全員で驚喜し、はしゃぎ、泣き出すようなことを、一体どれだけの人間が死ぬまでに経験するだろう。

⇒自分で思い起こしても、なかなかこういう経験はできない。小劇場に関わる人たちの息遣いが聞こえてきそうだ。


ただ、商業化の課題というのは、次の一説が的を得ているように思う。

p191:プロパーに評価される商品が悪いというわけではない。それは業界で確かに必要なものだろう。しかし、それとは別に新しい客を連れてくる商品を冷遇するような業界は、決して社会のメインストリームにはなれない。分かりやすいものを軽視する風潮には、商業的に成立するために不可欠な一般客への侮蔑がある。自分の気に入った商品がバカにされるような業界に一体誰が金を落としたいものか。外から見たら苛立つほどに転倒している価値観に自分の身内が振り回されているのは、毎度のことながら不愉快だった。


小劇場を思い起こしてみると、大学時代に誘われてテントの中に入り、筋は訳が分からなかったけど、森田童子さんが「ぼくのともだち」を歌っていたのが、なんともすごかったという印象として残っている。あの活動をしていた人たちは、いま、どうしているのだろう?

{7/2-3読了、記入は7}