読書録

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政治とカネ

政治とカネ―海部俊樹回顧録 (新潮新書)

政治とカネ―海部俊樹回顧録 (新潮新書)

首相経験者の回顧録としては、あまりにわかりやすくて実直な言葉で語られ、新書というところが、言葉のわかりやすさにこだわった海部元首相らしいといえばそうか。在任中に”軽さ”を批判されたと本人も自覚されているが、この著作もその部分があることは否めないと思う。


恩師の三木元総理への尊敬や竹下元総理への愛着などと、宮沢元総理への嫌悪などが、その人間性とともに率直に語られるのも、なんとも正直といえば正直だ。p28には、最も不快だった発言として、勉強も抜群に出来る政治家なのに、小馬鹿にされたことで頭に血が上ったと記している。河野洋平氏や小泉元総理に対しても、行動が一貫していないと厳しい。安倍元総理についても、復党の際に自らの写真を自民党本部ですぐ掲示してくれたことに恩義は感じつつも、辞め方については批判している。
また、田中角栄元総理については、
p53『海部君、政治は力だよ。力は数、数は金だ』と直接聞かされたとしつつ、先見性や人情味、仕事が早いことなどを褒めている。ただ、親分が黒といえば白でも黒になるプロ集団の恐ろしさにも触れ、その悪い面を引き継いだのが小沢氏だという。(p57)「担ぐ神輿は、軽くてパーなヤツが一番いい」と言われたことも(p101)も紹介している。新進党自由党と3度にわたって関わった経験をもとに、p174:『あの壊し屋に関わることはほとほと疲れる。・・人の陣地に手を入れて、誘惑してその気にさせて、壊す。あの性癖は死ぬまで治らないのではないか』と厳しく批判している。


著者の政治家としての心意気は、どのような仕事であったとしても、生き方として同意できる内容だ。
p40『今、改めて思う。政治家とは、どうしたらみんなが幸せになれるかを、我と我が身に置き換えて考えられる者のことだ。国民皆は無理だとしても、一人でも二人でも多く豊かにしたいと思い、努力し、その努力を喜びに変えられる人。そして、それを国民に直接、自分の言葉で伝えられる者。それこそが政治家なのだ』
また、恩師、三木武夫氏の言葉として
p43『政治家の最も大切な資質は、一億国民の倫理に耐えうること』を紹介し、その清廉潔白な正義感と強い信念に惹かれたと心情を吐露している。
さらに、「三木おろし」時の言葉がのちの自分にも降りかかってきた運命として
p63:『わしは、独裁者じゃないからな。『議会の子』である以上、民主主義のルールはまもらなければいかん』(p153にも再登場)


また、憲法観としてp79に披瀝している考えは、大多数の国民が腹におちるのではないだろうか。
『現行憲法は、国民主権、人権尊重、平和主義の三大原則を謳っている。日本人は、戦後、議会制民主主義という大きな贈り物を手に入れた。憲法は、占領軍に与えられたものだからいけないというのはおかしい。与えられたものでも良いものは良いのだ。さまざまな事柄を押し切ってまで、憲法を全く新しく作り直す必要はない。特に、武力による威嚇や武力行使には慎重の上にも慎重であるべきで、第九条の第一項、戦争の放棄の精神医は手を加える必要はない。ただ、第二項にある「戦力不保持」と「交戦権を認めない」とまで言ってしまうと、やむにやまれぬ場合、正当防衛的個別自衛権さえも認められなくなってしまう。これは良くないと思う』


この著作の中には、外交上の重要な事実関係を、さりげなく書いている。
p124:91/01/17の多国籍軍イラク攻撃について事前に連絡を受けていたこと。
p130:北方領土をめぐるゴルバチョフ大統領(当時)との交渉で四島を明記。
p183:外務次官から歴代首相が引き継いできたという3センチほどの資料=「日米安全保障条約における日本に対するアメリカの要望書」、人はあれを「密約」と非難するが、・・日米の約束事だったと解釈している。・・政府が黙って緊急事態の措置を講じることは、決して罪ではなくむしろ義務だ。


p13〜「自性清浄心(じしょうしょうじょうしん)」→仏教用語で、何かをしようとする時、ちょっと待てこれでいいのかと心の中から出てくる言葉→「わかりやすく、きれいな政治」の道を歩んできた。
p186〜「志有竟成(こころざしあればついになる)」→「一歩前進二歩改革」が政治信条。



{4/20-22読了、記入は23}