読書録

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『アベンジャー型犯罪』 岡田尊司 著

秋葉原の事件や土浦市の八人殺傷事件、下関通り魔事件など、これまでの無差別殺傷事件について、事実や背景を振り返りながら、これらをアベンジャー型犯罪として分析し、アメリカでの銃乱射事件などとの共通点も探りながら、問題点をえぐり出していく。この内容には、著者が京都医療少年院に勤務する精神科医だけあって、とても説得力がある。

少年による凶悪事件は減ってきているのが現実だと指摘していた論もあったが、むしろ、本著が示すように、少年事件の高年齢化というか、むしろ社会に深く広く広がってきているという方が、受け入れられる。「ゲーム脳」についても論争があることは理解しながらも、著者が紹介しているように、アメリカでの報告が指摘する暴力的なネットゲームや映像、バーチャルな世界の影響というのは、あるのだろうと思う。

子を持つ親としてどうしたらいいかと考え、少年犯罪や心理の本も何冊か読み、「自尊感情」の重要性は認識してはいるが、どう育ってくれているか、正直よくわからない。

著者はまた、いきすぎた市場競争・グローバル化を批判し、アメリカのボストンで成功したコミュニティ一体となって支えていく対策について紹介しているが、確かに理想としてはそうなのだろうけど、IT化が進み、直近に読んだ「デジタルネイティブ」のような存在も現れてくる中で、どこまで「昔」に戻ることができるのだろうか。ゆったりした時間が流れ、気持ちが落ち着ける方が「幸せ」だとしたら、なぜここまでIT化が進んできたのか。膨大な情報が溢れる今、どのような生き方ができるのだろうか。本著の提言部分については、さらに自分なりに考えていきたいと思う。


p58:(犯罪の心理的プロセスの共通点)現実の挫折や傷ついた体験を誰かのせいにし、「復讐」として凶悪な犯罪をやるという共通する構造である。そこには、短絡的な責任転嫁があるが、同時に、彼らが心に重い傷を受けた歴史を抱えているという事実もある。・・こうした「復讐者」による犯罪は、日本だけの問題ではない。アメリカやヨーロッパでも、近年、アベンジャーによってしばしば大惨事が引き起こされている。{アメリカでは二つ、無差別に学校で銃乱射や刃物を振るうクラスルーム・アベンジャー(教室の復讐者)と、職場での恨みで銃乱射を行うワークプレース・アベンジャー(職場の復讐者)}いずれも特定の個人に対する報復というよりも、迫害者として同一視した社会への復讐という意味合いを帯び、無関係な人を巻き添えにするのがアベンジャーの特徴でもある。

<問題点>p66〜
(1)乏しい社会性、共感性
1:欲求不満耐性が低い
2:怒りのコントロールの問題
3:対処能力が乏しい
4:狭い交友関係
5:不適切なユーモア
6:共感性の欠如
7:他人を非人間化として扱う
(2)自己愛の病理(←p78:不可欠な鍵を握る・・必須の概念)
1:自己中心性
2:誇大な特権意識
3:優越的な態度
4:注目への過度な欲求
5:責任転嫁
6:覆い隠された低い自尊感情
(3)傷つきやすさとネガティブな認知
(4)ヴァーチャルなメディアや暴力への熱中(←p158:NCAVC報告書で学校での銃乱射の犯人に共通する背景の一つ)

p238:一方には、野放図な市場経済の拡大があり、もう一方には、それと手を携えた自己愛型社会があって、両者の暴走が、個人レベルでは共感性や社会性の低下といった人間性の弱体化をもたらし、社会的レベルでは、共同体の共感的構造を崩壊させ、利益と利便性だけで結びついた無機質で冷たい社会へと変質させてきた。そこに、情報通信革命が加わることにより、その過程は加速され、われわれの人間性は、われわれの生存を支える社会とともに、これまで経験したことのない危機に直面しているのである。・・さらに一言で言えば、自己愛と欲望の暴走によって、人間としての存立が危殆に瀕しているということである。アベンジャーは、そうした社会と個人の崩壊過程が生み出した悲劇であり、押しつぶされた個人の絶叫なのである。

p:安定的に社会、経済の秩序が維持されることが、結局は、人々の最大限の幸福につながる。競争や成長ばかりに血道をあげるのではなく、馴染んだ秩序のうえで、ゆったりと時間が流れることにより、共感的な関係を大切にするゆとりも生まれ、多くの人が豊かな人生を楽しむことにつながる。それは、アベンジャーを生まない社会への確かな一歩になるだろう。

{図書館から借り5/7読了、記入は5/9}