読書録

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『法律より怖い「会社の掟」』 稲垣重雄 著

法律より怖い「会社の掟」―不祥事が続く5つの理由 (講談社現代新書 1939)

法律より怖い「会社の掟」―不祥事が続く5つの理由 (講談社現代新書 1939)

著者は、日本人の精神構造として、一神教のような契約概念がなく、対人関係を重視し、ロナルド・ドーア氏の「性さほど悪くない説」で動くというような社会学的な考察を踏まえて、共同体としての「会社の掟」が重要な意味を持つことで、「法規定」や「見えない規範」に反して不祥事が起きる背景だと説明する。
その一方で、近江商人の「三方よし」(売り手、買い手、世間)の考え方が、他国者意識と家の永続への願いから生まれ、現代の松下幸之助氏や本田宗一郎氏などにも受け継がれており、対人関係を重視してきた日本ではCSR=企業の社会的責任(「正しく儲けよう」)を果たして「共生」することも、もともとできるのではないかと指摘する。
そして、日本の会社が共同体であることを考慮し、法治主義による「見えない規範」の明示化や自覚化、そして厳罰主義を採用することで、社会秩序を維持する方向に向かうべきだと方向性を示唆している。
社会学的、精神文化論的考察から、失敗学の引用、不祥事の分析と、物事を考えていく上で様々なツールを示してくれるように思う。


p68:畑村洋太郎氏の「だから失敗は起こる」より、失敗の原因、10項目→
無知、不注意、手順の不順守、誤判断、調査・検討の不足、制約条件の変化、企画不良、価値観不良、組織運営不良、未知。防げないのは未知のみ。不良は組織に起因。

p84:不祥事が続く5つの理由→
(1) 日本人と法の関係−近代法成立の経緯や契約の基本原理がなく、当事者意識を欠くため、法を守ることは建前
(2)関係的主体であること−対人関係を最重視、状況に対応して行動する
(3)あらゆる組織が共同体化する−一次集団と二次集団に境界がないため、社員は強い身内意識で結ばれ、外部には無関心無頓着冷淡になりやすい
(4)「会社の掟」が存在する−優先すべきは法律より会社の掟
(5)目的と手段の逆転−安定志向が強くなり会社の維持が最優先され、当面の利益確保が至上命題になって企業犯罪を誘発しやすい

p88〜不祥事の7類型(縦軸に不正利得の獲得、横軸に共同体の維持)
経営効率過剰重視型、利益獲得を諸規範に優先させる→集団食中毒やJR福知山など
情報の非対称性悪用型、癒着して利益を分け与え→サリドマイド、スモン、エコ偽装
優越的地位濫用型、コストは仕入れ先に&労働奉仕→代金の不当減額、不公正取引、サービス残業
部門暴走型、まずい情報は上に上げない→国産牛偽装、水増し請求
共同体死守型、会社維持のためになりふり構うな→談合、カルテルリコール隠し、自殺過労死
トップ暴走型、会社の恥は隠せ→粉飾決算、利益供与、総会屋スキャンダル
尊大民僚型、民は由らしむべし知らしむべからず→データ改ざん虚偽申告、保険料不払い

p177〜テキサス・インスツルメンツ社のエシックスカードの5項目の問いかけ
もし判断に迷ったら
/それは法律に触れないだろうか
/それはTIの価値基準にあっているだろうか
/それをすると良くないと感じないだろうか
/それが新聞に載ったらどう映るだろうか
/それが正しくないとわかっているのにやっていないだろうか

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