読書録

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『欲望する脳』 茂木健一郎 著

欲望する脳 (集英社新書 418G)

欲望する脳 (集英社新書 418G)

茂木さんの本にしては、専門というか哲学用語が結構でてきて、一部読み直さないと意味をつかむことが難しい文章もあった。
著者の考え方も随所に示されていて興味深い。
夜が更けてきたので、ここでいったん中断・・再開して以下引用から↓

p12:論語の引用→子曰く、吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順い。七十にして心の欲する所に従って、矩(のり)をこえず。→「自分の心に従っても、倫理的規範から逸脱しない」という境地は、人間の究極の理想像である。p22:「己の欲せざる所は人に施すなかれ」
p36:アインシュタイン「ある人の価値は、何よりも、その人がどれぐらい自分自身から解放されているかということによって決まる」
p44:(若い奴はなどと主語をたてることで罠にもはまるため)他者を思いやる。主語を置き換える。様々な工夫を凝らして他者をブラックボックスの抑圧から解放することで、自分自身もまた、解放されるのである。

p54:(時代の流れ)「野獣化」とは、体系的な知識や、論理的な筋道、イデオロギー、価値の序列などとは無関係に、自分の欲望を無条件に肯定し、それを他人に対して表出することをためらわない傾向を指す。

p58:同じだけの金がもうかるならば、何をやっても経済的には同じだ。資本主義の論理は基本的にはこれである。・・(進化論の論理)・・快楽の文化の「野獣化」は、結果としての快楽を重視する点において、資本主義や進化論の論理とつながっている。
p64:元来、人間の置かれる文脈は、時間や場所に強く規定されていた。・・ITの発達、とりわけ「モバイル」の進化は、場所や時間と文脈を切り離した。・・文脈の流動化は、同時に、文脈の複数化ももたらした。・・ITが人間を自由にし、また束縛するようになったのである。・・戦争のような単一文脈性の状況には向かない・・社会のIT化は世界の平和に大いに貢献している。

p92:自らの欲望を追求することを肯定する心情は、ニートの若者と億万長者の企業家との間に通底しているのであろう。

p124:(氏か育ちか)人間の知性は、いつまで経っても完成形を迎えることのない『終末開放性』をその特徴としています。だから、たとえ遺伝子によってかなりの部分が決まっていたとしても、実際的な意味ではきまっていないのと同じなのです。遺伝子によって決まっているという運命論など気にすることなく、前向きに生きれば良いのです。

p141:ドーパミンをはじめとする脳内の報酬系の活動に着目して、不確実性の存在下で人間がどのように判断し、行動するかを究明する「神経経済学」は、まさに同時代的な要請の下に誕生したといえる。・・
p156:問題は、この世界ではどうやら実現することが不可能であることがわかっていることに対する志向性である。・・(冒頭の論語引用再度)・・容易には実現できないことをいかに志向するか?そのこと自体が、現代における一つの倫理命題である。人は不可能なことに真摯に向き合った分、大きくなれる。
p163:人生において、自分の欲望が実現するということは、多くの場合他人の欲望の実現の可能性が消滅することを意味する。・・


p172:アダム・スミスの思想を今日の脳科学認知科学の視点から評価すると、生きる上で避けられない「偶有性」を引き受ける形でその命題がたてられている点に真価があるといえる。社会主義の理想が、ともすれば「こうすればこうなるはずだ」という偶有性を排した教条主義に走りがちだったのに対して・・(・・社会が行き詰まるのも当然だった)


p186:苦痛よりも快楽の方が脳の変化を促進するきっかけになる。だからこそ、生きるということを全面的に肯定することには、合脳的裏付けがある。
p188:創造的な人は清濁併せ呑むという印象を受けることが多い。逆に、あまりにも肯定的な美意識に貫かれた人はうんさくさい。


p205:学ぶことには終わりがない。だから、学びの喜びは、尽きることがない。学習においては、苦しいことが付きものである。苦しい
時間を経過しなければ得られな快楽の領域があることを、私たちは体験的に知っているはずである。
p220:(結語)「自らの欲望を肯定する」ということが、「利己的」というニュアンスを失って生命哲学的な深みを呈するに至った時、人類はその長い概念上の進化の階段をまた一つ上ったことになるのだろう。


←冒頭に引用された論語の70歳のところが、随所に出てきて、さまざまな形でちりばめられ、最後にまたその意味へと収斂していく。学ぶことは楽しいことだと思いたい・・引用ばかりが増えてしまった一方、肝心の要旨がつかめていないような気もする。
・もともとは集英社のPR誌「青春と読書」に24回連載されたものをまとめたというこの文章には、言葉を探しながら定義などをめぐって議論した若いころのことも思いこさせてくれた。難しさを感じるのは、「偶有性」などの言葉が、すっと自分の中に落ちてこないからなのだろうとは思う。
・それにしても、本著の中での引用も幅広く、知の森をかけめぐるような印象も受けた。


{図書館で9/21借り30読了、記入は10/1〜)