読書録

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『危機管理』 宮林正恭 著

危機管理―リスクマネジメント・クライシスマネジメント

危機管理―リスクマネジメント・クライシスマネジメント

著者の経歴を見ると、旧通産省に入省後、科技庁、在米日本大使館宇宙開発事業団などを経て、千葉科学大学副学長となっていて、この本も身近な遺産相続?から国の安全保障まで、極めて幅広く、危機管理について体系的に紹介されている。

危機発生直後の緊急対応として、「不確実な」認識を減らすためには、危機認定の基準を作成しておく必要があり、発生したら、中枢機能を立ち上げ、人員を配置。情報を収集し事実関係を確認して整理することが大事で、体制が整わなくても、判断を放棄することがないように日頃から訓練が大切。初動時の情報収集では記録を残すことも重要。一方、HQがいちいち細かいことに口を出すのは良いことではなく、現場が自ら判断せず、お伺いをたててくるばかりの構造ができあがっているとすればそれも問題。


初動時における留意事項として(p49)
1.希望的な観測を避けて、事実を事実として認めることが重要。
2.事実に関する情報のみに基づいて判断し、推測はしない。
3.関係者は推測による対外発言は控える。
4.確認情報を未確認情報を明確に区別しておく。未確認情報を完全に排除はできないが、それによって重要な判断はしない。
5.可能性は低いと考えられるときでも念のために確認する。過大すぎる措置をとって十分すぎるという方がずっとよいが優先順位をつける。
6.上司、監督機関、関係の組織責任者など関係者への報知を重視し徹底する。伝わっているかの確認は必要。
p58:マスメディアとの対応はストレスのかかる仕事であるので、その対応者には十分ストレスに耐え得る人物を選ぶ必要がある。
p80:アメリカのジョンソンアンドジョンソン社のタイレノール事件では、青酸混入で鎮痛剤をすばやく回収し、成功した例として有名。


p188〜企業の危機状況
1.災害や事故など工学的な対策が必要になるもの 2.職員が起こす問題や労働争議など 3.戦争動乱社会変動といった社会的変化に伴うもの 4.経営環境の急速な変化 5.経営の失敗 ←企業統治コーポレートガバナンスの要求

p201:人間には完全ということはありえない。危機管理の実施においては、人はミスを犯す可能性があるということを常に念頭に置き、ある程度はそれを許容する必要がある。
p203:危機管理にあっては、個人・組織・社会の三者の間に一種の相克コンフリクトが存在し、それぞれの利害が一致しないことが多い。
p206:危機管理には、道徳律を軽視した形で論理が形成される場合がある・・・自衛戦争でも、危機管理と道徳律の相克がある。危機管理の面から自衛のためなら戦争もやむを得ないという考え方に対して、道徳律の面から、戦争は何であろうと悪であるという見方もあって、両者は相反することになる。


p207〜危機管理が主たる役割の部署の悩み 
a非常時における業務と平常時の業務との繁忙の差:危機がこないと軽んじられ、逆に成功していると緊急事態への対応能力が低下する
b平常時と非常時の要求される質的能力の差異:平時は調整役の人や気配りの人だが、緊急時では蛮勇=的確な判断力と即断性、事態の場面を想像できて解決へのシナリオが書ける能力、さらに直観力が重要で、そうした人材を確保しておく必要がある。
c危機管理に伴う弊害:リスク回避の思いから消極的、保守的な行動パターンになることもあり、突っ込んで調べない、前例が最高基準など。実際に危機が起こると的確な対応ができない。

アメリカの金融危機をはじめ、さまざまな企業の不祥事など、危機管理はますます重要になっていると思いつつ、この本を読むと、さまざまな難しさがある。

{図書館から9/6借り26読了、記入は10/1}